◎ごくごく
ふらりと入った店で、わたしとれおちゃんは「造花茶」というものを注文した。お湯に沈めてしばらく待っていると、葉っぱが開き花が咲くという見た目と味がいっぺんに楽しめる中国茶だ。しかもお湯を注ぎ足せばおかわりができて、ゆっくりお喋りを楽しむ時には最適なお茶である。
「これすごい可愛いね!」
みるみると赤いお花が顔を出し、お湯にも色がついてくる。ふわりと漂ってくるいい香りも、チャイナ使用の店内も何もかもが素敵。奥の席で本を読んでいる女性以外、2階にはわたしたちだけだった。
「まこちゃんにお土産にしたら?」
きっとすねてるんじゃないかしらって言われて造花茶で忘れかけてた腕の赤い斑点を思い出してしまい、恥ずかしくて目をさっとそらす。くっこのままこの話題からは遠ざけようと思ったのに。
「れおちゃん、あんまりからかわないで!それにほんとに、ほんとに違うの!れおちゃんが思ってるような事じゃないから!」
殊更に声を小さくし、それでいて力強く。
「私が思ってるような事じゃないってなぁによ。ほら言ってみなさい」
ふふんと笑って脚組みした姿はとても美しいけど、簡単には逃がしてもらえなさそうだ。チャイナドレスじゃなくてジーパン姿でも美しいなんてパーフェクトすぎる。そういえばれおちゃんは、ユニフォーム姿もかっこよかった。何度か試合を見させてもらったけど、背が高くてあの暑苦しい会場の中でもちろんれおちゃんだって汗流してるのに、その汗すら光ってた。
「昨日は、というよりも次の日予定が決まってる時は、絶対そういうことしないって事になってるの」
「なにそれ同棲ルール?」
「そういうんじゃないけど・・・」
わたしと同棲する上で決めたルールにそんなルールはない。けれど暗黙というか、花宮くんなりの気遣いというか、とにかくそういうことになっている。こんな話しをれおちゃんにする恥ずかしさに、カップを口をつける早さがあがる。この造花茶かわいいけど、葉っぱが口元に入って気になる。
「じゃぁなんであんなにキスマークこさえてたのよ」
「知らないもん。帰ったらおこるからいいの」
ちょいちょいとフォークで浮いた葉っぱを取り除きながらも、目の前でれおちゃんが口元をにやにやとさせているのが気配でわかる。わたしの話しを信じてはいるんだろうけど、いまいち納得してもらった雰囲気じゃない。
その後お茶を3杯もおかわりして(これ一体どこまで出続けるの!?)花宮くんとお茶する様に、造花茶を一袋2つ入りをおみやげに購入した。お菓子も買った方がいいかな?と相談したら「写真があるからいらないわよ」と返された。れおちゃんは、「征ちゃん」にお土産にしましょと何袋か購入してた。「征ちゃん」というのは多分赤司征十郎くんの事で、あまり親しくないけど、東京の某有名大学に通っているという噂を聞いている。
「いろはちゃん、またまこちゃんとサークルにでも顔出して!なっかなか来てくれなくれ木吉も困ってたわ!」
「ありがと、花宮くんに頼んでみる」
途中まで一緒の帰宅。先にわたしの最寄りが到着してれおちゃんに手をふって別れた。さーて花宮くんとっちめてやるんだから!
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