NARUTO L | ナノ




えいゆうのおはなし


「かあさーん」

夕飯の準備をしていると、ランの呼ぶ声が聞こえてきた。

「なぁーに?どうしたの?」

台所からリビングを覗くと右手にミクリの手をしっかり握り、左手に本を抱えるランの姿。

「ごほんよんでー」

「…オレが読んであげようかって言ったんだけど母さんがいいんだって」

肩をすくめてミクリが言う。面倒見のいい子に育ってくれて本当に助かる。

「ミクリ、ランのこと見ててくれてありがと。ラン、ちょーっと待っててね。これ終わったら読んであげるから」

「うん!ランまてるよ!」

元気に返事をして、ランはミクリの手を引いてソファに座った。ミクリはされるがままだ。
プッと少し笑って、ハンバーグのたねをさっとまとめて冷蔵庫にしまい、手を洗ってから私もソファに座った。

「はい、お待たせ。どの本?」

「これ!とうさんのほんだなにあったの!」

ランが差し出してきたのは『えいゆうのおはなし』という題名の絵本だった。

「ナルトの?」

…巻物と少しの本がごちゃごちゃに積まれてるあの本棚からよく見つけたものね。

「…あら、この絵…フフッ、なるほどね。
ごほん、それじゃあ『えいゆうのおはなし』のはじまり、はじまり〜



ーーーある所に、少年がいました。
少年の周りには誰もいなくて、少年はいつも一人ぼっちでした。
「自分を見てほしい」「話しかけてほしい」その一心で少年はイタズラをしました。
…けれど、少年が何をしても「彼」を見てくれる人はいませんでした。
なぜなら少年の体には、昔、里を襲った化け狐が封印されていたからです。
里の人たちは、大人も子供も、少年を腫れ物に触るように扱いました。

やがてアカデミーに入ると、少年は一人の「先生」に出会いました。
先生は「彼」のことを認めてくれました。
それから、少年の世界に「繋がり」ができたのです。
「仲間」が、「ライバル」が、「師匠」が、「友達」が、一人また一人と少年を認めてくれる人が少年の周りに現れ、たくさんの繋がりができました。
…繋がりはなくなってしまうこともあります。
だから、少年は繋がりをなくさないように、一所懸命強くなりました。
強くなった少年は、大事なものを、大事な人を守れるように、戦いました。
そうして、少年は故郷の「英雄」になりました。


しかし、間もなくある者たちによって、再び戦いが起こりました。
それは世界中を巻き込む、大きな大きな戦いになりました。

その戦いの中で、少年に「相棒」ができました。
かつては「化け狐」と呼ばれた「最強の相棒」が。
一所懸命戦う少年の周りには、たくさんの「仲間」がいました。もう一人ぼっちではありません。
少年は「相棒」と「仲間たち」と一緒に、たくさんの大切な繋がりを守るために戦いました。

そして世界に平和が訪れました。
少年は、今度は「世界の英雄」になったのです。
人々は皆、口をそろえてこう言います。

「今の幸せがあるのは、『英雄』のおかげだ」とーーー



「すごいすごーい!えいゆうってすっごーい!!」

目をキラキラさせて、ランがソファの上で跳びはねる。

「ちょっ、ラン!ソファの上でピョンピョンしちゃダメ!」

「かあさん!ラン、このごほんの『えいゆう』になる!やあっ、とおっ!」

「コラッ!騒がないの!」

「ただいまー」

ソファから飛び蹴りポーズで降りたランを怒っていると、タイミング良くナルトが帰って来た。

「とうさんおかえりー」

ランはリビングをドタバタ走っていた勢いのままナルトに飛びつき、ナルトはしゃがんで危なげなくランを抱きとめた。

「ただいま〜ラン〜、どうした?いいことあったのか〜?」

「とうさんはえいゆうってしってる!?えいゆうってねぇ、す〜っごくかっこいいんだよー!」

「英雄ぅ〜?そんなのより父さんのがず〜っとかっこいいってばよ!なんてったって木ノ葉の火影!!………………あーーっ!サ、サクラちゃんそそ、その本…」

「あぁ、コレ?『英雄』の絵本よ。ランがあんたの本棚から見つけたんだって」

「ああぁぁぁ……英雄って…コレ読んだ…んだよな……うわあああぁぁ…」

「プフッ、アハハハほら、さっさと手洗って洗濯物出してきて。すぐご飯にするから!」

「とうさんだっこだっこ!ねぇ、とうさんはごほんのえいゆうしってる!?ばけぎつねとあいぼうなんだよ!かぁっこいいね〜」

「う〜…はっず…」

ナルトははしゃぎまくるランを片手に抱き上げてリビングを出て行った。頬が心なしか赤い。

「ふふふ、さ…てと。ご飯しなくちゃ」

ソファから立ち上がると、ずっと黙っていたミクリがうつむいたまま私の服の裾を掴んで引き止めた。

「…ん?どうしたのミクリ」

「…………どうなったの?」

「へ?」

「……英雄、最後はどうなったの?」

「あら?あんたもこの本みたいな英雄になりたいの?」

「うん!だってかっこいいじゃん!!オレ、みんなを守れるくらい強くなりたいんだ!それくらい強くなったら英雄になれるよね!?」

「もちろん!ふふ、頑張りなさいよ〜」

「で!その絵本の英雄は最後どうなったの!?」

「そうねぇ…英雄はね、


えいゆうのおはなし
(今も誰かを幸せにしているのよ)


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