07

世界一愚かな獣





「ほひ〜!これこれ、そんなに恥ずかしがらんで…」



部屋に入るなりベッドに直行するコルネオにドン引きしつつ、怪しまれないように私も控えめにベッドに腰掛ける。

そのまましばらく俯いて何も言わない私をジロジロと見ていたコルネオだったが、痺れを切らしたのか徐々にこちらへとにじり寄ってきた。



「もっと近くへ、な?」

「コ、コルネオ様…」



すぐ近くにある気味の悪いコルネオの顔に、恥ずかしがるフリをして思いっきり顔を背ける。
その時、目線の先に「精力剤」とかかれた空きボトルが見えて顔が引つる。もうやだ、見なきゃ良かった……



「ほひ〜!そのミステリアスな雰囲気が好みだが、もう我慢でき〜ん!!」



その瞬間、強引に腕を引かれる。
予期せぬ出来事にハッと目を見開くも、コルネオに触れられたことに動揺して上手く力が入らない。
抵抗出来ずされるがままに押し倒されてしまい、私の目の前には見たくもないコルネオの顔。
これから何が起こるかを察して血の気が引く。



「ほひ〜!この細くて綺麗な脚、たまらんの〜!」

「い、いやっ…!」



ドレスの裾からコルネオの手が入ってきて太ももあたりを弄る。その感触に嗚咽が出そうになって歯を食いしばって我慢した。

このままじゃまずい、コルネオの気を逸らさないと…!



「コ、コルネオ様!…その、お聞きしたいことが…!」

「ん〜?聞きたいこと〜?そんなの、お楽しみが終わってからいくらでも聞いてやるぞ〜!」



ティファに頼まれた質問をしてみようとするも、それどころではないとばかりに全く聞いて貰えない。
それに焦りを感じて、じわりじわりと恐怖に蝕まれていく。気づけばガタガタと体が震えていた。



「ほひ〜!!この清楚な下着もたまらんの〜!ほひ〜ほひ〜!!」



ハッとして目線を下げればそこにはコルネオがドレスの裾を捲りあげており、そのまま息を荒らげて私の顔へとどんどん近づいてくる。
あまりの恐怖にぎゅっと目をつぶり頭が真っ白になった。

これはもう、本当にダメかもしれない…!
……お願い、誰か………!!




(本当に危ないと思った時のために、持っておけ)

(すぐ、助ける)




「(………!!)」



不意に頭をよぎったツンツン頭。そして、彼に言われた言葉を思い出す。

……ありがとう、クラウド。


____バタンッ!!


「ほひー!!何する!貴様!!」

「エル!!!!」

「っ、クラウド…!」



念の為忍ばせておいた、クラウドに貰った小型ナイフ。
今の今まで忘れていたそれを、とっさにコルネオに向けて振り回して切りつけたその瞬間、勢いよく扉が開かれて武装に着替えたクラウドが部屋へ突入してきた。



「大丈夫か!」

「…うん、なんとか…おかげさまで…」



右手で握りしめている少し血の付いた小型ナイフを、クラウドに見せるように前に出す。

クラウドはいつでも剣を抜けるようにしてコルネオの方に体を向けたまま、震えている私の手に握られてカタカタと音を立てるそれを見て、眉間に皺を寄せた。



「…遅くなって悪かった」

「ううん、平気。来てくれてありがとう」



私なんかのために、わざわざ急いでここまで来てくれたんだろう。そして、情けなく震える私を見て顔を歪めるクラウドの優しさに、ズキリと胸が痛んだ。
そんな顔しないで、と力なくへらっと笑えば、クラウドも困ったように笑ってくれた。



「エル!大丈夫!?」



少し遅れて、ティファとエアリスの姿。ベッドや私の服に少し飛び散っている血痕を見て、2人とも驚いたように目を見開いた。
私の肩にそっと手を触れて「怪我はない?」と心配そうに聞いてくるエアリスに「うん、大丈夫だよ、ありがとう」と苦笑いする。



「なんだ!?なんだ!?なんだ貴様ら!?」



コルネオは、私に切られたであろうお腹あたりを押さえて激怒していた。
それに対してティファがキッと睨みつけ、「悪いけど質問するのは私達の方よ」と強めの口調でコルネオに問いかける。



「手下に何を探らせてたの?言いなさい! 言わないと……」

「……切り落とすぞ」



クラウドの低い声の脅しに、コルネオは「ヒッ」とたじろぐ。
その隙に、着替えを持ってきてくれたティファにありがとうと小さな声でお礼を言って、いつものハーフローブに素早く着替えた。



「や、やめてくれ!ちゃんと話す!何でも話す!」

「さ、どうぞ」

「……片腕が銃の男のねぐらを探させたんだ。そういう依頼があったんだ」



片腕が銃の男……おそらく、バレットの事だろう。



「誰から?」

「ほひ〜!言ったら殺される!」

「言いなさい!言わないと……」

「……ねじり切っちゃうわよ」



次はエアリスがコルネオに脅しをかける。……目が笑ってない。



「ほひ〜!神羅のハイデッカーだ!治安維持部門統括ハイデッカーだ!」

「治安維持部門統括!?」

「神羅の目的は!? 言いなさい!言わないと……すり潰すわよ」



神羅の、治安維持統括部門。
アバランチはそんなすごい部署が動くほど危険視されている、って事だ。
ティファが再度脅すが、今度はコルネオの表情が真剣なものに変わる。



「ほひ…姉ちゃん…本気だな。偉い偉い……俺もふざけてる場合じゃねえな」



先程とは雰囲気が違うコルネオの様子に、無意識に身構える。



「神羅はアバランチとかいうちっこい裏組織を潰すつもりだ。アジトもろともな。
文字どおり、潰しちまうんだ。プレートを支える柱を壊してよ」

「柱を壊す!?」

「どうなるかわかるだろ?プレートがヒューッ、ドガガガ!!だ。
アバランチのアジトは七番街スラムだってな。この六番街スラムじゃなくて俺はホッとしてるぜ」

「七番街スラムが無くなる!?」



コルネオから聞かされる衝撃的な言葉に目を見開く。スラムが無くなるなんて大惨事にも関わらず、自分には関係がないからとお気楽そうにペラペラと喋るコルネオにふつふつと怒りが湧いた。



「クラウド、7番街へ一緒に行ってくれる?」

「もちろんだ、ティファ」

「私も行くよ」

「うん、そうだね。エルも一緒に行こう」



私にとって7番街スラムはかけがえのない場所だ。記憶のない私には、スラムで暮らしてきた思い出しか大事にできるものがない。

薬屋のお店も大事な思い出のひとつで、あれは私を引き取ってくれたおばあちゃんから継いだものなのだ。
おばあちゃんは昔からずっと7番街スラムで薬屋をやっていて、記憶のない私の世話もしながら嫌な顔一つせず薬の作り方も教えてくれた。

高齢で、2年前に亡くなってしまったおばあちゃんのお店。プレートの下敷きになんかなって欲しくない。

みんなで顔を合わせてさっさと屋敷から出ようとした時、「ちょっと待った!」とコルネオの声が響いた。


「黙れ!」

「すぐ終わるから聞いてくれ。俺たちみたいな悪党が、こうやってべらべらと本当の事を喋るのはどんな時だと思う?」



コルネオはご丁寧に、

1.死を覚悟した時
2.勝利を確信している時
3.何が何だかわからない時

と選択肢を出てきた。


こんな状況でもニタニタと笑うコルネオの違和感にハッとして足元を見る。
しまった、最初この部屋に入った時は動揺していて気づかなかったけど、この下には……!!



「勝利を確信した時…か?」

「ほひ〜!あったり〜!」



咄嗟に「危ない!」と叫んだけれど時すでに遅し。私たちは足元にぽっかり空いた落とし穴から真っ逆さまに暗い底へと落ちていった。




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