05

怯懦は音もなく





武器屋から出てきたところで、タイミング良くエアリスと合流した。
エアリスは相変わらずニコニコしながら「情報、聞いてきたよ!」と自慢げに話す。

なんでも、コルネオという男は今夜自分のお嫁さんとして迎える子をオーディションで決めるのだとかなんとか。
ティファの格好を考えるにおそらくそれに参加するつもりなのだろう。

オーディションが行われるらしいコルネオの屋敷に急いで向かうと、そこには門番らしい男が立っていた。



「ここはウォールマーケットの大物、ドン・コルネオ様のお屋敷だ。いいか、ドンは男には興味ないんだ。さっさとどっかへ…」



そう言いかけた門番が、クラウドの後ろにいた私とエアリスに気づくと急に態度を変えた



「ああっ、良く見たら綺麗な姉ちゃんも一緒!ね、どう?うちのドンと楽しいひとときを過ごしてみない?」



そういってこちらをジロジロと見る。……主にエアリスを。

…どうせこんな見た目じゃ私が「綺麗な姉ちゃん」にカウントされてないことくらい、知ってますよーだ……。

一方のエアリスは、私とクラウドの袖を引いて少しその場から離れるようにしてコソコソと話しかけていた。



「ね、やっぱりここがドンの屋敷みたい。私、行ってくるね!」

「え…っ?!」

「ティファさんにあなたとエルの事話してきてあげる」

「ダメだ…!!」



そういうなり門番の元へと戻ろうとするエアリスの肩を掴んで、クラウドは強引に引き止める。

うん。私も賛成できない。


「待って、私もエアリスと一緒に行く。…一応、女だし……中には入れるはず」

「それもダメに決まってるだろ!」

「…どうして?」

「……ここは……その……わかるだろ?」



クラウドは気まずそうに目線を下に向けて、顔を逸らす。
ここがどういう場所かは…なんとなく察しがつく。でもだからって、ティファを助けるためには中に入るしか方法がないのだ。



「じゃあ、どうする?あなたも入る?」

「俺は男だからな。無理やり入ったら騒ぎになってしまう」



「かといって2人を行かせるわけには……いや、しかし……」とクラウドが考え込んでいると、急にエアリスがふふふ、といたずらっぽい笑みを浮かべていた。



「エアリス?どうしたの??」

「……クラウド、女の子に変装しなさい。それしかない、うん」

「「ええ?!」」



突拍子もないエアリスの発言にクラウドと一緒に驚きの声をあげる。クラウドが、じょ、女装……?!
エアリスはそう言うやいなや、ニッコリと笑顔のまま門番の元へと戻り「ちょっと待っててね、綺麗な友達連れてくるから!」と楽しそうな声で言った。



「エアリス、いくらなんでも……」

「ティファさんが心配なんでしょ?さ、早く早く!」

「……………クラウド、この事は………なるべく早く忘れるからね……」



そういってクラウドに同情して苦笑いすれば、やるしかないのか………と憂鬱そうにつぶやいた。


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先程の洋服屋に情報収集しに行ったエアリスのおかげで、一苦労はあったものの無事にクラウド用のドレスを作ってもらえることになった。

出来上がるまでに時間がかかるそうなので、今はエアリスと一緒にクラウドに似合いそうなアクセサリーを選んでいるところ。

最初はクラウドに同情していたけど、キラキラとした笑顔を浮かべて楽しそうにクラウドの女装計画を進めていくエアリスに釣られて、私も自然と口角が上がるくらいには楽しんでいた。



「クラウド、美形だもんなぁ……きっと可愛いのよりも、綺麗なやつが似合いそう」

「ふふ…エル、クラウド"さん"って呼ばなくなってる。ね、クラウドと何かあったの?」

「…え、あ、いや………別に何も…」



とっさに、ふざけてティファの真似をしていたのを見られたことを思い出して顔に熱が集まる。
するとエアリスは「おやぁ?おやおや〜〜??」とニヤニヤとこちらを見つめてきた。



「ふぅ〜ん、なるほどぉ〜〜?」

「なるほど…?」

「ううん!エルってあんまり興味無いのかなって思ったけど、そうでもないのね!」



その一言で、エアリスの言わんとしてる事を察して慌てて否定する。
待って、違う違う、そうじゃない…!



「ちょ、エアリス!そういうのじゃないって!!」

「も〜、照れなくていいのに」

「ち、ちが……?!もう!本当に違うんだってば〜!!」



エアリスは私の言葉など少しも聞いてくれないまま、手短に会計を済ませて洋服屋へと戻って言ってしまった。

はぁ…、とため息をついてエアリスの後を小走りで追いかける。

恋愛とか…そういうの、私にはよく分からない。
クラウドは大事な人だけど…エアリスだってティファだって、もちろん大事な人だ。
特別何か違う…なんてことはない。みんな、私の大事な人で、私の好きな人。




エアリスより一足遅れて洋服屋へ着くと、ちょうどクラウドが覚悟を決めたように試着室へと消えていくところだった。
クラウド…本当に着るんだな……

今か今かとクラウドが着替え終わるのを待ちわびるエアリスを見れば、目が合って「楽しみだね!」と笑いかけてくる。私もそれに連れて「うん、そうだね」と笑みこぼす。



「こ、これは……」

「…本当に、クラウド…?」

「これはなかなかどうして…新しい商売になるかもしれんな」



控えめに開かれたカーテンから出てきたのは、すこしガタイはいいけれど…綺麗な人がそこには立っていた。
これが身の丈程の大剣を振り回す元ソルジャーなどには到底見えない。
はっきりいって、女の私でも見惚れる程の美しさだった。



「クラウド、元から綺麗な顔立ちしてるから絶対美人さんになると思った!すごい綺麗…!」

「っ……?!」

「だって!ふふ、おしとやかに歩いてね、クラウドちゃん」

「……はぁ、何がおしとやかに、だ」



不貞腐れたように吐き捨てるクラウドに対し、お店の人はキラキラと目を輝かせてクラウドを見ている。
そして、いいもの見せてもらった、とドレス代をサービスしてくれた。うんうん、これなら誰が見ても女の子だ。



「クラウドちゃん、かわいい。でも、いいなぁそのドレス。……私にも似合うやつないかな?」

「エアリス?」

「あ、これなんて良いかも!ちょっと着替えてくるね」



エアリスは「覗いちゃダメよ?」といってあっという間に試着室に消えていった。

急な展開についていけずぽかーんとしていると、シャッとカーテンの開く音がして「どう?似合ってる?」と真っ赤なドレスに着替えたエアリスが現れた。



「わあ…!エアリス!すっごく綺麗!似合ってる!」

「ふふ、ありがとうエル」

「…でも、こんなに綺麗な2人に挟まれちゃったら私、肩身が狭いなぁ…」

「やだ、なーに言ってるの!はい、エルはこれ!」



あまりにも綺麗な2人に、自分が女だということをあやうく忘れそうになる。
明らかに見劣りする自分が恥ずかしくてつい愚痴をこぼしてしまったけど、そんな私にまるで最初から用意してあったかのような素振りで、エアリスはニコニコと真っ白なドレスを突きつける。



「……へ、?!」

「さ、早く早く!」

「ち、ちょっと!エアリス?!わ、私は…!!」



まさかの展開についていけず、クラウドに助けを求めようとクラウドの方を見ればあわてて目をそらされる。
そんな間にもエアリスにドレスを押し付けられつつグイグイと試着室の方へと押し込まれていった。
2人みたいに綺麗になれるわけがないし似合うわけが無い!それに私は……!



「だぁ〜いじょうぶ!……ね?」



顔を見せられないのに。



「エア、リス……」



私を試着室に押し込み、エアリスは何かを差し出してウインクをする。
エアリスが手に持っていたのは、……顔が隠れるくらいの、大きめの白いベールだった。



「(たった少しの間一緒にいただけ、なのに。……そんなことも気づけちゃうんだなぁ、あの子は)」



いつものハーフローブから、エアリスが選んだ真っ白のパーティードレスに着替える。
試着室の鏡を見れば、幾何学模様のスコープのような瞳と目が合う。

物が透けて見えたり、弾丸の軌道がはっきり見えたり、敵の名前も弱点も見えたり。
……普通の人には見えないものが、何もしなくても私には見える。

本当はティファの居場所だって、最初からわかっていた。"視えて"たんだ。
でもこんな事誰にも言えない、だから一人で追ってきた。



「(でも今は、そんな私を心配してくれる人がいる。私に出来る事があるなら…全力で頑張ろう)」



ベールをしっかり被って、顔を隠す。
「おまたせ」といって試着室から出ると、パァァッと笑みを浮かべたエアリスが走ってくる。



「エル!すっごく綺麗!」

「へへ…そう、かな……こういうの、初めて着るからよく分かんなくて…」

「とっても似合ってる!!ね、クラウド?」


すると、ぼーっとこっちを見ていたクラウドは急に目を泳がせて「…あ、いや……」と口ごもる。
そんなクラウドの様子にじれったくなったのか、エアリスは「もう!素直じゃないんだから!」といって私の手を引いてお店から出てしまった。






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