4.5

色の無い彼女





「はぁ………」


エアリスといい、エルといい、どうしてこうも無茶苦茶で自分勝手な奴なんだ。
武器屋に来て興味津々で武器を見つめるエルに「武器やマテリアは持っているのか」と聞けば、何も持ってないという代わりに、自分で作ったであろう申し訳程度の毒薬を見せてきた。

こんな所に1人で飛び込んだティファもティファだが、油断して魔晄炉から落ちた俺も悪い。しかし後先考えずに助けようとする彼女に、思わずため息が出た。

エルの事はティファから何度も聞かされていた。興味がなかったから適当に聞き流していたが、彼女の話をするティファがやけに楽しそうにしていたのは覚えている。

いつだったか、ティファに「いつまでスラムにいるの?」と聞かれた事があった。
特に考えてなかったから「まだ、しばらくは」と適当に返す。
ティファは「そっか、よかった!」と嬉しそうにした後に「聞いた事あると思うけど、ここは結構治安悪いの。だからもし何かあったら、エルの事守ってあげてね」と。

グレーのハーフローブを見にまとい、フードを深く被り、目を逸らせば夜闇に紛れて消えてしまいそうな、色の無い彼女を見てふと思い出した。……仕方ない。



「先に店を出て待っててくれ」



そういってエルを店の外へと追い出す。
彼女が店を出たのを横目で確認すると、再び店内を物色する。

ここは…男の、そういう街だ。顔は見えずとも、エルが女だということは誰が見てもわかるだろう。

見るからに戦闘が得意そうではないエルでも扱えそうなのは…小型のナイフ、と言ったところか。

ざっと店内に沢山並んだそれらを見渡すと、ふと1つの小さなナイフに目が止まる。
それは綺麗な刺繍の施されたレザーケースがついた、小型の仕込みナイフだった。それを手に取れば、そのナイフの軽さに思わず目を見開く。

これならきっと、力のない彼女でも扱えるだろう。値段もさほど高くはなかった。

欲しかった防具とエルに渡すナイフをレジのカウンターへと置く。カチャカチャと銃の整備でもしていたであろう店主がこちらへと振り向いた。



「なあ兄ちゃん」

「…なんだ」

「このナイフ、あの嬢ちゃんにあげるんだろ?…まけといてやるよ」



厳つい見た目とは裏腹に優しいその発言に「いいのか、」と聞き返すと、店主は笑って「おうよ!頑張れよ!兄ちゃん!」といって本来よりも多いお釣りと一緒に紙袋を手渡された。

頑張れよ、って……何がだ。


店の外に出ると、少し離れた所で何やら怪しい目付きの男2人がコソコソと話をしているのが見えた。視線の先を辿れば、店の脇に置いてあるボロボロのマネキンを見つめるエル。
男2人の視線を遮るように彼女の元へ早歩きで近づくと、エルは急にそのマネキンに向かってパンチを繰り出した。



「……何してるんだ、あんた」

「っわ!クラウドさん…!え、っと……ティファの真似…?」

「なんで疑問形なんだ」


見られてると思っていなかったか、顔を真っ赤にして慌てふためくエルがおかしくて、つい乾いた笑みが零れた。

釣られてへへ、と笑うエルに「ほら、」と先程買ったナイフを渡せば「私にはいらない」なんて、いつぞやの通路で出会った時のような謙虚なことを言う。



「…あんたが怪我でもしたら、俺がティファに何されるか分からない。…エルが使ってくれ」



そういって、先程エルを見ていた怪しい男2人を睨めば血相を変えて逃げていく。
それに満足して彼女の方を見ると、ぱちり、と目が合った…ような気がした。

その瞬間、急に冷静になり一気に恥ずかしさが襲ってきた。待ってくれ。幼なじみのお願いとはいえ、出会って間もない女のために武器を買ってやるなんて何をやってるんだ、俺は。
俺はそんなことするようなやつじゃないだろ。


「ありがとうございます、クラウドさん」

「……クラウド、でいい」



完全に動揺した俺は、かしこまって礼をいうエルが気に食わず、柄にもなく咄嗟に呼び捨てで構わない、と言ってしまった。
自分が自分じゃないようで、顔に熱が集まるのを感じた。くるりとエルから背を向けて夜風に当たろうとスタスタ歩き出す。

…何してるんだ、俺は










(お前が、あの子を守ってやれよ)



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