04
銀色のセオリー
ウォールマーケットへの道すがら、セブンスヘブンで起きた事を軽く説明した。
事情を聞いたエアリスもクラウドさんも、深刻な表情で「早くティファを助けないと」と口を揃えて言った。
「エルは、ティファさんを助けるために、1人でここまで追いかけてきたの?」
「あ…うん。ティファは私にとってすっごく大事な友達だから放っておけなくて……」
「そっか、優しいんだね、エル。でも、1人でこんな所に来たら危ないよ?私とクラウドに出会わなかったらどうするつもりだったの?」
「そ、…れは……」
エアリスの問い掛けに思わず口ごもる。
ちらりとクラウドさんの方を見れば、呆れたようにはぁ、と深いため息をついていた。
「あ!別にエルを責めてる訳じゃないよ?だけど、エルが危ない目にあったら、今のエルと同じようにすごく心配する人がいると思うの。だから…1人で無茶したらダメよ?」
「ね?クラウドー?」とニコニコしてクラウドさんに問いかけるエアリスは、変わらず優しくて暖かい笑顔のままだった。
出会って間もないエアリスは、まるで昔から付き合いがあったかのような、そんな雰囲気を感じさせる不思議な子だった。
なんだか、話してもない自分のことを見透かされてるような、そんな気分だった。
「エルも、クラウドにボディーガード、頼んだら?」
「ボディーガード…?」
「そ、ボディーガード!クラウド、何でも屋さんなんだって!それで今、私のボディーガードお願いしてるの」
「報酬はね、デート1回!」と、指で"1"と作っていたずらっぽい笑みを浮かべるエアリスに、クラウドさんは肩を竦めていた。
意図してなのかわからないけど、明るい雰囲気の話題をエアリスが作ってくれたおかげで不安や緊張感は薄れてた。
それに気づいて、本当に不思議な子だな、とエアリスを見つめる。
私の視線に気づいたのか、1歩後ろにいた私の方へと振り返り、「んっ?」と首を傾けるエアリスに、なんでもないよ、と笑って誤魔化した。
そしてあっという間にウォールマーケットへと到着。
そこは眩しいくらいのネオンに包まれて、売り子や酔っぱらい達の声が耐えず飛び交っていた。
「とりあえず、情報収集、だね」
「ああ…聞き込みでもしてみよう」
エアリスとクラウドさんが通りすがる人達に聞いてみるが、酒が回っているのかまともな会話にすらならなかった。
その中で「武器屋にいい防具が入ったらしい」という情報があった。
嘘っぽいなと思ったけど、聞き込みついでに装備を整えたいと武器屋に向かおうとするクラウドさんに、エアリスは「じゃあ向かいの洋服屋さんに聞き込みしてくるね!」と言った。
1人で大丈夫なのかと心配になったけど、「何かあれば直ぐにボディーガードさんが助けてくれるから!」とクラウドさんにウインクして、足早に洋服屋さんへと消えていった。
勘弁してくれ、というクラウドさんに苦笑いをする。でも、私エアリスのああいう所、好きだなぁ…。
「…欲しいものでも、あるのか」
武器屋に入るや否や、興味津々で商品である銃やナイフ、ロッドなどを見る私にクラウドさんは気になる防具を手に取って吟味しながら問いかけてきた。
「あ、いえ!ただ、スラムじゃあんまり見た事なかったので…」
私には戦闘スキルが欠片もないので、武器や防具などは全くもって縁遠い存在だ。
それ故に武器屋などに仕事以外で訪れた事がなく、初めて近くで見るそれに何故か興味を引かれた。
食い入るように武器達を見ていると購入予定のものを見つけたのか、手に抱えているクラウドさんがちらりと私を見てつぶやいた。
「あんた…武器とかマテリアとか…もってるのか」
グレーのハーフローブに身を包んでいるだけの私の姿を見て、それらしきものを隠し持っているのかと気になったんだろう。
だがしかし、もちろんそんな物はない。
薬品作りでモンスターを倒す時は、自家製の激毒薬や簡単な罠を用意するだけで事足りたし、
マテリアに至っては記憶を無くす前がどうだったか分からないが、私はどうやら魔法が使えないらしい。
試しに練習した事が何度かあったけれど、うんともすんとも言わないマテリアがそこにあるだけだった。
「い、いえ……これくらいしか…」
私は腰元にあるハーフローブの裾をめくって、スカートのベルトにつけている護身用の毒薬たちを見せた。
どれも致死量ではないのでその場しのぎにしかならないのだが。
そして。「はぁ……」と、本日二度目のクラウドさんからの深いため息が聞こえた。
ティファが心配だからとは言え、ほぼ丸腰で追いかけてきて一体どうやって助けるつもりだったんだ。
たぶん、クラウドさんの言いたいことはこれだろう。
いざとなったら…最終手段は一応考えていた。
それでも、その手が使えるか使えないか、賭けのような選択だった。
後先考えないの、よくないよなぁ…反省しなきゃ。
クラウドさんは項垂れる私に「先に店を出て待っててくれ」といってお会計の方へと向かった。
私はコクン、と頷いて店の外へと出る。
外へと出るとふと、お店の脇にあったマネキンへと目がいった。
誰かに殴られでもしたのか、そのマネキンは関節が変な方に曲がったりしていてすごくボロボロだった。
「(…私も、鍛えたらティファみたいに、強くなれるのかな)」
そう思って、ギリギリ届かない位置でマネキンへとパンチしてみる。
いつだったか、強いモンスターに襲われてる所を助けてくれたティファを思い出して、右、左、とパンチしてみる。
「……何してるんだ、あんた」
「っわ!クラウドさん…!え、っと……ティファの真似…?」
「なんで疑問形なんだ」
クラウドさんはふっ、と軽く笑った。
あ…初めて見た、かも。クラウドさんの笑ったところ。
釣られて私もへへ、っと軽く笑う。
するとクラウドさんはおもむろに、今購入してきたであろう物が入っている紙袋をガサガサと漁り、「ほら、」といって何かを手渡してきた。
「…持ってるのと、持ってないのじゃ全然違うからな。本当に危ないと思った時のために、持っておけ」
「……ナイフ…?」
「グローブの方が良かったか?」
「い、いや!!そんな!!でもこれは私なんかよりエアリスに…」
「……あんたが怪我でもしたら、俺がティファに何されるか分からない。…エルが使ってくれ」
クラウドさんは最初こそ茶化していたけれど、その目は真剣で、思わず気を使わせしまったことに申し訳なさを感じた私は慌てて受け取った。
本当に危ないと思った時、か……。
ここは女の子にとってはすごく怖い街だと聞いた。その含みのある言い方に、世間知らずな私でも何となく察した。
自分の身くらい自分で守らなきゃ、ティファを助けるなんて出来るわけないもんね…。
確かにクラウドさんの言う通り、武器を持っているのと持ってないじゃ、もし危ない目にあっても状況は変わるだろう。
受け取ったナイフはしっかり、腰のベルトにつけておいた。いつも護身用の毒薬を引っさげているところだし、咄嗟に使えるはず。
「ありがとうございます、クラウドさん」
「……クラウド、でいい」
そういって、私に背を向けてスタスタと歩いていってしまった。
ふと見えるクラウドの耳が、すこし赤いような気がした。
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