03

夢の末路を辿る





その後、今日は特に依頼が無かったので、連日の寝不足を補うため家に帰って仮眠をとる事にした。

ベッドに寝そべり目を閉じて、ゆっくりと息を吐く。
ぐっすり寝れるようになったのも、割と最近の事だ。それまでずっと、眠れないか、寝れても浅い眠りしか出来なかった。
寝て起きたら、自分が誰なのか分からなくなりそうで、怖かった。

私には、このスラムに来るまでの記憶が無い。私はどこで生まれて、家族は何人いて、どんな事をして生きてきたのか……どうして記憶が無くなったのか。

自分のことを、実はよく知らない。

そして、私がずっとフードを被り続ける理由もそこにある。
そう、私は人に顔を見せることが出来ない。

なぜなら、鏡を見れば否が応でも分かる、人とは違う"眼"があるからだ。これがなんなのか、正体を知らない私は、怖くて周りに隠して生活するしかなかった。

しかしスラム街には、私のようなワケありの人は珍しくないと聞いた。
だから、この眼を見られたくなくて、不自然にもずっとフードを被り続けて暮らしてきたけれど、誰もそれを悪く言わなかったし、理由も聞かれなかった。

ティファも、そうだ。何も聞かずに仲良くしてくれた、私が知る限りの、初めての友達。










目が覚めて、妙な胸騒ぎを感じて私は急いでセブンスヘブンへと向かった。
そこにはマリンが1人、みんなの帰りを待っていた。

偉いね、マリン。もうすぐだから、一緒に待っていよう。そういって、カウンターの席に座ってマリンを膝に乗せて、折り紙を作って待っていた。

そして。

帰ってくる、と約束したティファは、たしかにちゃんと帰ってきた。
でも、彼女はボロボロで、憔悴しきった顔で「クラウドが、クラウドが…!」と今にも泣きそうな顔をしていた。

彼がどうなったのか聞く勇気は無い。
しかし、いつも笑顔の耐えない彼女のその表情は、脳裏に鮮明に焼き付いた。


その後、バレットがセブンスヘブンの前をうろつく怪しい男から「ドン・コルネオ」という奴の名前を聞いた、と言っていた。
大した奴じゃない、放っておけというバレットに対して、ティファはずっとソワソワしていた。

おそらく、彼の事が心配で気が気じゃないのだろう。
そんなティファを放っておけなくて、彼女の後をこっそりつけていったら、なんとその「ドン・コルネオ」という男の元に忍び込もうとしていた。


1人じゃ危ない、なんとかして助けなきゃ。
必死にティファの後を追っていけば、気づけばもうチョコボ車に乗ってどこかへ向かってしまった。

どんどん小さくなるそれを睨んで追いつけないことを悟りながらも、必死に走り続けた。
しかし、やがて足が上手く動かなくなって、もつれた足にひっかかり地面へと倒れ込む。


つい先日、こうして倒れ込んだ時手を差し伸べてくれたあの彼は、無事なんだろうか。
元ソルジャーだと言っていたし、そこらのモンスターじゃ敵にもならないティファが「すごく強い」と言っていた。

……でも、その彼がバレットたちと一緒に帰ってこなかったのだ、何かあったのは間違いないのだろう。
ううん、きっと大丈夫。大丈夫だろうと思いたい、けれど…。


体勢を建て直して、膝を抱えてしゃがみこむ。
急に不安な気持ちでいっぱいになった。周りを見ればそこは見知らぬ土地。

これからどうしよう。ここ、どこなんだろう…。私は、7番街スラムから出たことがない。記憶のない私にとって、まるで知らない世界にポツンと1人だけ取り残された気分だった。

ぎゅっ、と自分で自分の肩を抱く。

もし…この眼を使えば。ティファも、クラウドさんも、見つけられる…のかな…



「…エル、か?」

「…っ、?!クラウドさん…?!」



視界の端に厚手のブーツの足先が見えた時、唐突に上から名前を呼ぶ声がした。
びっくりしてがばっ!と見上げれば、目線が合うようにしゃがんでこちらを不思議そうに見る、行方不明のはずのクラウドさんの姿があった。



「怪我は?!大丈夫ですか!?」

「ああ、大丈夫だ」

「よ…よかっったぁ……無事だったんですね!本当によかった…!」



クラウドさんが無事だと言うことがわかり、気が抜けてぺたりとその場に座り込んでしまった。
私の剣幕に少し驚いていたクラウドさんは、そんな私の間抜けな様子に苦笑いしながら「あんたはまた、転んでるのか」と、立ち上がるのに手を貸してくれた。

それがまるで、心配かけて悪かったとでもいいたそうで、彼の不器用な優しさにフードの下で微笑んだ。



「…クラウド、知り合い?」

「ああ、まぁ…ティファの友達だ」



立ち上がると、そこにはピンクのワンピースを来た可愛い女の子がいた。
クラウドさんの知り合いなのかな?不思議そうな顔をする私にクラウドさんは「助けてもらったんだ」と呟いた。



「はじめまして!私、エアリスっていうの。よろしくね!」

「あ、はじめまして、エルです!よろしくおねがいします、エアリスさん!」

「ふふ、エアリス、でいいよ?」



エアリスはそう言って、ふわりと笑顔を向けてくれた。あったかい、優しい人。それが第一印象だった。
エアリスと軽く挨拶を済ませて、裾に着いた土埃を払って前へ向き直ると、クラウドさんが真剣な目でこちらを見てくる。



「エル。ティファがどこに行ったか知らないか?」

「!!、どうしてティファがいない事知ってるんですか…?」

「さっきね、チョコボ車に乗ってどこかに連れていかれるティファさんのこと見かけたの」

「それで、追いかけて来たところに…あんたがしゃがみこんでたんだ」



どうやら、作戦中に負傷したクラウドさんは5番街でエアリスに助けてもらったらしい。
そして、そこで色々あったみたいだが、7番街スラムに帰るためエアリスに案内をしてもらっていた時のこと。
いつもと様子の違うティファがチョコボ車に乗って連れていかれるのを目撃したらしかった。



「ティファが、危ないの。とりあえず…ウォールマーケットへ行ったと思うので、急ぎましょ…!詳しくは途中で話しますね」



そして私たちはウォールマーケットへと向かった。
先程感じていた孤独感や疎外感は、もうどこにもなかった。



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