10

胡乱のリズム





支柱の周りにいた負傷者たちの手当を終えて、まだ上で戦っているであろうバレット達の援護をしようと支柱の階段を登る。

登りながら、時々階段で倒れている人達の手当をしていく。
神羅兵も何人かいたけど、私はどうも見逃せなくて。一人一人、丁寧に手当てをしていった。



…それが仇になるとも知らずに。



最上階に近づけば近づくほど、警告するアナウンスとアラームがどんどん煩くなっていた。
もしかしたら、このままでは………嫌な予感がして、頭を振ってそれをかき消す。

とにかく、急ごう。
そう思って駆けだした時だった。



「見つけたぞ!!捕まえろ!!」

「っ?!」



後ろから、複数の神羅兵が登ってくるのが見えた。
その手には神羅兵お馴染みのマシンガンが握られていて。


見つけた…?誰を…??


分かりきっていたけど、分かりたくなくて、周りを見渡したけれどやっぱり私以外には誰もいなくて。



「おい、そこのお前!ウォールマーケットでアバランチと一緒にいた奴だな?!」

「っ、は、…コルネオ、か…!」



追いつかれまい、と必死に駆け上がるけれど現役の兵には敵わなくて、どんどん差を縮められていた。

なんで私が追われてるんだろう。
確かにコルネオには悪い事をしたかもしれないけど、だからといってこんな時に捕まえに来るだろうか。



「いいか、絶対に撃つなよ!傷つけるなとの命令だ!」



それとも、同行していたから私もアバランチだと思われているのかな。
どちらにせよ、今はとにかく逃げて、早くバレット達と合流しよう。

そう思って上を見上げた時だった。



…嘘、でしょ…?



「ジェシー!!!!」


力なく横たわるジェシーの姿が、そこにはあった。
サァ…っと血の気が引くのが分かった。嫌だ、そんなの…嫌だ!嘘に決まってる…!!


咄嗟に駆け寄って、彼女の手を握る。
まだそれは少し、温かさを持っていたけれど……それでも、握りしめている私の手と比べたらあまりにも冷たかった。



「今だ!捕まえろ!!」

「…っ、いやだ…!ジェシー…!!はな、して…!!」



その隙にあっという間に追いつかれ、複数の神羅兵に捕らえられる。
羽交い締めにされ、ジェシーから引き剥がされそうになるのを、精一杯力を振り絞って踏ん張った。



「…………エル……?」

「っ!?ジェシー!!!」



ジェシーの口が僅かに動いたのが見えて、神羅兵に捕まりながらも必死に抵抗してジェシーにぐいっと身を寄せる。
…血の気のあまりない、彼女の顔を見た。



「…はや、く……にげ、…なさい…っ…」



ジェシーの顔は、とても穏やかで。

すぐ上から聞こえる、耳が痛い程の銃声と、
誰かに助けを求める、誰かの悲痛な叫び声。

どこかで、見ないようにしていた。死と隣り合わせだという現実を突きつけられ、心臓をぎゅっと掴まれたように息が詰まった。



っ、こんな所で捕まっちゃダメだ…!
早く、早く上に行かないと……!!!!












これは、おばあちゃんに預けられたばかりの頃だっただろうか。

「あんた、それは、気安く使ったら絶対にだめだ。……あんたが、本気で守りたいものが出来た時、あんたの力で守れると思った時にしか、使うんじゃないよ」

真剣な顔で、真っ直ぐ私を見つめて伝えるおばあちゃんを、今でも鮮明に思い出せる。











カッ、と目を見開く



「"視界混交"…!!!!」

「「う、うわああああああ?!?」」



視界、混交(シャッフル)

私のこの不思議な眼の最も攻撃性のある能力で、
私の……最終手段。


周りにいる人の視界を支配して、そしてそれをシャッフルする。
これを使われると、さっきまで見ていた自分の世界とは全く違う他人の視界に人は戸惑い、
それに体がついていけなくなって頭を抱えて倒れ込む。


これを使うのは…まだ、2度目だった。

初めて使った時おばあちゃんに忠告されてから、今までずっと使ってこなかった。

…これは、使用者の私にもダメージがある。
この眼の力は長く使えば、眼球が煮えるように熱くなり激痛が走る。
そして、使い慣れていないせいで自分でも上手く制御出来ずにいるから、これは本当の本当に…最終手段だった。



私の眼と同じスコープの様な幾何学模様が、私を取り囲んでいた神羅兵の目に浮かび上がる。
奴らは叫び声を上げて頭を抱えて倒れ込み、階段から落ちていった。


……ジェシー……おつかれさま。
穏やかに眠る彼女に、心の中だけでそう伝えて、おぼつかない足取りで必死に上へ上へと駆け上がる。


まだ、間に合う。お願い、急いで……!


心臓がどくどくと脈打って、すごく息苦しい。
視界混交の影響で上手く動かない自分の体に鞭を打ち、必死に足を動かす。
そしてやっと見上げた先に、戦うバレットたちの姿が見えた


その時だった。








「やれやれ……こんな所にまで来ちまうなんて、……さすがに困るぞ、と」

「……っ?!?」



赤い髪の、黒いスーツを着崩した、その人。
見間違える、はずがない。



「…ごめんな、」



わずか、ほんの一瞬。
数歩先にいたはずのその人は、私のすぐ隣にいて。

耳元で低く囁かれたと同時に、バチバチ、という音が聞こえて首元に痛みが走る。
その瞬間、全身が痺れて動けなくなった。


立つことさえ叶わず倒れていく私を、腰元に回された腕がしっかりと支えてくれる。
けれどその瞬間、急に視界が広くなり、風で私のローブが飛ばされてしまったことを悟った。




意識が途切れる間際、最後に見たのは、苦しそうに歪められた彼の顔だった。






_____
___
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「クラウド!止め方が分からないの、やってみて」



エルやエアリスと別れてから急いで最上階へと駆けつけた。
しかし僅かに1歩間に合わず、タークスによってプレート解放システムが起動されてしまった。

急いで解除しようとするティファに続いて小さなモニターを見てみるが、一筋縄ではいかない複雑な仕組みだった。



「…ただの時限爆弾じゃない」

「その通り。それを操作するのは難しい。どこかの馬鹿者が勝手に触れると困るからな」



プロペラの大きな音が聞こえて見上げれば、そこにはヘリに乗ってこちらを見下ろすタークスの姿。



「お願い、止めて!」

「クックックッ…緊急用プレート解放システムの設定と解除は神羅役員会の決定無しでは出来ないのだ。
…まぁ、例外としてたった1人、それが出来る奴はいたのだが…」

「ごちゃごちゃうるせえ!」



タークスの含みのある言い方に少し、何かが引っかかった。
だが、バレットがヘリに向かって銃を構えた事により、考えをやめてヘリを睨む。



「そんな事をされると、大事なゲストが怪我をするじゃないか」

「エアリス!!」



ヘリに乗っていたのは、紛れもなくエアリスだった。



「おや、知り合いなのか?最後に会えて良かったな。私に感謝してくれ」

「エアリスをどうする気だ」

「さあな。我々タークスに与えられた命令は古代種の生き残りを捕まえろ、という事だけだ。
随分長い時間がかかったが、やっとプレジデントに報告出来る」



悠長に笑みを浮かべてつらつらと語るタークスの隣で、エアリスがヘリから身を乗り出して必死に叫んだ。



「ティファ、大丈夫だから!あの子、大丈夫だから!」



____パシンッ

無情にも、タークスの男はエアリスの頬を叩いて黙らせる。



「エアリス!」

「だから、早く逃げて!」

「クックック、そろそろ始まるぞ。逃げ切れるかな?」



はっ、として上を見上げれば、柱にはバキバキと大きな亀裂が入っていた。
小さな破片が落ちてきて、やがてそれはどんどんと大きなものに変わっていく。



「上のプレートが落ちてきたらひとたまりもないわ。急がなくちゃ!」



このままここにいたらまず助からないだろう。
脱出を試みるティファとバレットを他所に、ふと俺は支柱の下に置いてきてしまった彼女を思い出した。



「……エル………」

「クラウド?」



あいつは、無事だろうか。ちゃんと避難してるだろうか。

…ティファのために1人で飛び出してくるような奴だ、きっとまた助けようとしてここまで上がってきているはず。

もしまだこの下にいるのなら、今ここで一気に連れて行かなければもう間に合わない。

急いで階段の方へ向かって下を覗き込むが、彼女らしき姿は見当たらない。その光景に、何とも言えない嫌な冷や汗がつつ、と背中を伝った。



「っクラウド!だめ!時間がない!!」



勢いよくティファにぐいっ、と腕を掴まれてはっと現実に引き戻される。
気づけば足場は今にも倒れそうにぐらりぐらりと揺れていて、一刻を争う状況だった。

そのままティファに引きずられるようにして落ちてくる瓦礫を避けながら、バレットが待機しているワイヤーまで駆け抜け、そのままワイヤーに飛び乗って脱出した。


後ろから聞こえるどんどん激しくなる轟音に振り返ると、土煙で先程まで居た場所は何も見えず、上から降ってきた瓦礫で辺り一体は爆炎に包まれていた。




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