09

「転ぶなよ」





ラプスを撃破して一息着くも、俯いたティファはすごく悔しそうだった。



「もうダメだわ……マリン……バレット……スラムの人達……」

「諦めない、諦めない。柱、壊すなんてそんなに簡単じゃない、でしょ?」

「………………そうね、そうよね………!まだ時間はあるわよね」



エアリスに励まされて、再び目に力の籠ったティファが「こんなところ、早く出ましょ」と歩き出す。

そうだ。柱を壊すなんてすぐに出来ることじゃない。
まだ…まだ守れる。

前を見て、私にだけ視えている出口への道をしっかり確認する。
「こっちから、出られそう」とみんなを誘導して外へと続く梯子を登れば、そこには使われなくなった列車がたくさん置かれていた。



「エアリス、すっかり巻き込んでしまって…」



外に出てから申し訳なさそうに呟くクラウドに、エアリスは首を振って答える。



「ここから帰れ!な〜んて、言わないでね」



気にしてない、とエアリスは明るい声でそう答えた。
お互いの言葉の奥にある優しさが自分に向けられた訳でもないのに心地よくて、私はフードの下で小さく微笑んだ。



ぐるぐると周りを見渡して「え〜っと、…明かりのついてる車両を抜けて行けば出られそうね」と、
ティファが教えてくれたのでそれに従って先頭を行くクラウドについていく。


道中でアイテムが落ちてるのが視えて、置いていかれないようにしつつそれらを回収しておいた。

あとでクラウドとティファに渡しておこう、そう思って少し先にいるみんなの方へ向かうと、出てきたモンスターと戦っていた。


慌てて駆け寄ると、どうやら珍しく苦戦しているようで「クラウド、どうしよう!倒しても倒しても復活する!」と焦ったようにティファが叫んでいた。



「これじゃあキリがないな」

「もう…!時間ないっていうのに…!!」

「どう、する…?このまま、走って逃げる?」



困惑している3人の後ろから敵の方を視る。
浮かび上がるホログラムの文字に、ああ…そういうことか、と納得。

たしかに、このまま戦っていてもこのモンスターは倒せないだろう。



「大丈夫。私に任せて」

「エル…?!」

「危ないから下がってろ!」



呼び止めるクラウドの声を聞き流して、3人よりも少し前に立つ。
今までずっと守られているだけだったから、役に立てることが嬉しくて自然と顔が綻んだ。



「…こいつらはこれで……えいっ!」


____パリンッ


" ゴースト 弱点:回復 "

先程回収したポーションを、ゴーストに向かって勢いよく投げる。
乾いた音を立てて割れたポーションはゴーストにキラキラと淡い光を放ち……ゴーストは一瞬で消えた。

しばらくしても復活してこない事を確認して、無事に倒せたことに安堵する。



「よかった、思った通りで」

「………なるほど、そういう事か」



顎に手を当てて考えていたクラウドは、理屈を理解したのかそう呟いた。
すぐに気づくのはやっぱりさすがと言うべきか。



「ねぇクラウド、どういうこと?」

「ここ、列車墓場だろ。あれは"そういう"モンスターだから、攻撃より回復の方がかえって効く、って事だ」

「あっ…なるほど…!」

「あ…そういう事ね!エル、すごい!」



謎が解けたティファが、パァッと顔を輝かせて褒めてくれた。それに続けてクラウドも、「そうだな、助かった」とお礼を言ってくれて。
それがなんだかとっても嬉しくて照れくさくて、えへへ、と笑って誤魔化した。

行くか、とクラウドが一声かけて出口の方へと再び歩き始める。



「でも、どうしてわかったの?」



歩きながら、エアリスが不意に問いかけてきた。
あ…ど、どうしよう。なんて答えよう。…戦ったことある、なんて見え透いた嘘はつけないし……と、焦って思考を巡らせる。

あ、でも、そういえば…



「…前にね、ここに出るモンスターに効くから、ってポーション買ってくれたお客さんがいたの、思い出して。
もしかしたらさっきの奴なんじゃないかな、って……」

「そっか。エル、薬屋さん、やってるんだよね」

「うん。……小さいお店だけど。よかったら、エアリスも、クラウドも、今度遊びに来てね!」



お店の話を振られて、7番街スラムが潰されてしまうかもしれない、という焦りが再び蘇る。
それは私だけじゃなかったみたいで、ティファもクラウドも何となく、表情が硬かった。

そんな雰囲気を破るように明るく言えば、エアリスも同じくらい明るい笑顔で「うん、もちろん!ね、ボディーガードさん?」と笑った。
それに対してクラウドも、小さく笑って「ああ、そうだな」と答える。



大丈夫、すぐに止めればきっとまだ、間に合う。



そして、



「間に合った!柱が立ってる!」



無事にスラムへと帰ってくる。すぐ目の前に見えるそれは、まだ、しっかりと立っていた。



「待て!……上から聞こえないか?」

「……銃声?」



がばっと見上げれば、所々で発砲の度にパチパチと火花が飛び散っていて。

その時だった。

ひとつの影が落ちてくるのが見える。そしてそれはどんどん大きくなって……地面へと叩きつけられた。

急いで駆け寄れば、そこにいたのは…



「大丈夫か?……ウェッジ!!」

「……クラウドさん……俺の名前…覚えてくれたっすね…」



そんな……もう、これで最期みたいな事…言わないでよ…
ぐっ、と涙を我慢しているティファとエアリスを、見て見ぬふりをして。
ウェッジに駆け寄って、持っている自家製ポーションを急いで取り出す。


「…エルさん……、おれ、いつも…エルさんの作ってくれたポーションに……助けられてました」

「っ、大丈夫だから、今から助ける、から!」



セブンスヘブンで、何度も一緒にご飯を食べた、ウェッジ。
ティファの手料理、何が一番美味しいかで揉めたこともあったっけ。

気さくで、誰に対しても優しくて。
アバランチではない私にも、お店以外であった時も、いつでも優しく声をかけてくれて。


ポーションをかけようとした手を、ウェッジの手で止められる。



「な、んで……!」

「バレットさんが…上で戦ってるっす。手を貸してやって……クラウドさん、迷惑かけて……すいません、っす……」



ウェッジは、そう言い残して、ぐったりとしてしまった。
ぎりっ、と奥歯を噛んで堪える。

俯いていたみんなの空気を変えるかのように、クラウドは勢いよく立ち上がって「登るぞ!」と声を上げた。



「エアリス、ウェッジを頼む」

「……ごめんね、エアリス。お願い、この近くに私達の店、セブンスヘブンがあるの。そこにマリンっていう名前の小さな女の子がいるから…」

「わかった。安全な場所へ、ね」



クラウドとティファの頼みに、エアリスも真剣な顔で頷いた。



「エアリス…気をつけて、無茶しないでね」

「うん。エルこそ。また、1人で無茶したらダメだからね?」



エアリスはそう言って、セブンスヘブンの方へと走っていった。



「エル。この辺りにいる、まだ動けそうな人達の手当を頼めるか」

「うん、もちろん。まかせて」



私が頷いたのを確認すると、クラウドは柱に向かって一気に駆け出した。

どんどん小さくなる背中に妙な寂しさを感じて、私は咄嗟に「気をつけてね!!!」と叫んでいた。
クラウドは、立ち止まらずに振り返り、こくん、と頷いて、また口パクで何かを伝えてきた。



「…もう、転ばないってば」



小さなため息と共に、そう呟いて。
柱の麓で戦って負傷しているアバランチや街の人達の手当を急いだ。





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