時刻は4時40分。本来なら竹刀を持ってナマエ達と楽しく部活をやっているはずの時間。だがしかし、私は古典科準備室にいた。


「はあー…」


私が何度目かのため息を着くと、反対側に座っている土方先生が私をチロリと見て、また読んでいる本へと視線を戻す。
はい、ただいま進級か留年かをかけての補習中なんです。(斎藤先輩曰く、古典は補習をサボると留年するらしい。だったら、沖田先輩は一体なんなんだ…?)

室内には土方先生がページを捲る音と、時計の秒針の音だけが響いていた。


「ひ、土方先生…」
「あ?終わったのか?」
「一応、終わりました…」


ここにいるのはまあ、赤点を取ってしまったからなんだけれど、なんと私は古典のテストで1点も取れなかったらしい。
そして、私はついに土方先生を怒りを通り越して呆れさせてしまったのだ。
なのでかなりレベルを下げ、中学のおさらいでもしてろ!と、プリントを渡されたのがついさっきのことでありまして。


「ったく、中学のおさらいに何分かかってやがんだ」
「す、すいません……なかなか思い出せなくて」
「馬鹿野郎、勉強は記憶力の問題じゃねんだよ!」
「……、ごもっともです」


あああ、怖いんですけどおおお!!!土方先生は我が剣道の顧問なのだが、いまいちまだ慣れない。なんか、こう、雰囲気が独特過ぎると言うか…
私が縮こまって俯いていると、人一人殺せるんじゃないかってくらいの眼力でこちらを睨んだ気配がした。
みょうじ、と名前を呼ぶ声が恐ろしいほどに冷たくて、プリントまで0点だったのかな…と不安が過った。


「は、はい?」
「お前もわざと赤点取ったのか?」
「え?ま、まさか!そんなわけないじゃないですか!!」
「だよな。平家物語の作者を大和撫子って書くやつがそんなこと出来るわけねぇよな」


ほら、とプリントを渡す先生は、さっきの声は幻聴か?ってぐらいに優しい笑みを浮かべた。
不審に思いプリントを見ると小学生が喜びそうな、まさかの花丸がついていたのだ。うおお、全部出来てる……ってそうじゃなくて!


「ひ、土方先生!もうそのネタやめてくださいって!!」
「いやあ、あれにはさすがの俺も笑ったよ。なんせあの山南先生も苦笑いするくらいだからな」
「ちょ、なに勝手に見せてんですかああああ!!!!」
「何ムキになってんだよ」


土方先生はそうやって笑うと、手にしていた本を私の頭の上に置き、持ってろ、と呟くと備え付けのキッチンの方へと消えていった。
向かう途中、土方先生は振り向かないまま「お前、コーヒー飲めるか?」と聞いてきた。


「はい……飲めますけど」
「へえ、ガキのくせに飲めるんだな」
「じゃあなんで聞いたんですか…」


はあ、とため息と一緒に言葉を吐き出すと、土方先生に渡させれた本をパラパラめくってみた。
………推理小説、読むんだ。……意外。


「声に出てるぞ」
「え、あ、あれ?」
「……そういやお前、本は読まねぇのか?」
「剣道の本なら読みますけど」
「(総司と同じこと言いやがって…)お前は本を読まねぇから読解力がねぇんだよ」
「そーですかね?KYなんて言われたことないですけど」
「そっちじゃねぇよ!……ったく、勉強の話だ」


あり?と私が返事をしたとき、コポコポという音とともにおいしい香りが漂ってきた。むむむ、もしかして……


「ほらよ。馬鹿は一時間集中しただけで疲れるっていうからな。休憩にちょうどいいだろ」
「……………………」
「ん?どうした?」
「ひ……土方先生が優しい!」
「…!?」



珈琲は好きですか?



(ったく、顔は可愛いってぇのに、)
(中身は空っぽじゃねぇか)


__ガチャ、
「土方先生ー、原田先生が………って、あれ?なまえちゃんじゃない」
「ぎくっ」
「僕に内緒で土方先生と二人っきりなんて……ふぅん?覚悟は出来てるってことだよね?」
「総司!ノックぐらいしろっていつも言ってんだろーが!!」


まだまだ続く、恋の予感。


(お、沖田先輩近いで、)(総司)
(へ?)
(これから総司先輩って呼んでくれるなら、離してあげる)
(ええええええ)



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