あれから1週間。
ほぼ抜き打ちテストのような、新入生の為の新入生による新入生学力テストが行われた。
そして、各部の体験入部も終わり、各学年の掲示板にそれぞれの部の新入部員が張り出されたのが今日である。
無論、昨年度の全国大会でベスト16に入った私とナマエは必然的に剣道部へと入部した。元はと言えば、それを条件に入学したようなものなんだけど。


「なまえ!お昼、食べよ?」
「うん。あ、せっかくだし、お花見でもする?」
「お!いいねぇ…………、屋上にするか」
「そだね」


人間似たり寄ったりで、同じ事を考えるものだ。
裏庭の大木の傍にはすでに多くの生徒が集まっていて、とてもじゃないがあんな人混みで食べる気にはならない。屋上ならば日向ぼっこもできるし、見下ろせば桜だって見える。
私とナマエは他愛もない会話をしながら屋上へと向かった。


__ガチャ
「うっわ、眩し!」
「いいじゃん、温か、く……………て」


そこには、先客がいた。


「あれ、屋上って1年生は立ち入り禁止のはずだよね?……なまえちゃん」
「総司、屋上は立ち入り禁止ではない。余計なことを言うな」
「お、沖田先輩!?…………と、斎藤先輩!」
「ちょ、あんたいつの間に沖田先輩と仲良くなったわけ!?」
「いつの間にって、最初から仲良いよね、僕たち」
「え、や、まあ、強ち否定できないけど…」


そんなに仲が良いわけないだろう、沖田先輩。


「ちょっと、なあにその目は」
「………ナマエ、食べようか」
「うん」


私が沖田先輩たちを通りすぎようとしたとき、不意に沖田先輩の声をかけられた。


「別に、向こうまで行く必要ないんじゃない?君たちは僕らの後輩なんだし、一緒に食べようよ。ねぇ一君」
「俺は別に構わないが」


なんとなく、断ってはいけないような気がして、私たちは一緒に食べる事にした。


「にしても、驚いたよ」
「なにがですか?」
「なまえちゃんと、ナマエちゃんだっけ?あの日遅刻してきた君たちが特待生で、剣道部だったなんて」
「ああ、掲示板見たんですか」
「そうそう。一瞬、何かの間違いかと思ったよ」
「……まあ、私もですけどね」
「ん?」


沖田先輩のちょっと刺のある言い方に、イラッとしたのは気のせいではない、とおもう。
言い返すつもりはなかったけれど、言ってしまったからには言わねばならないだろう。


「あの悠長で女タラシの先輩が、まさか私が憧れてた選手なんて、夢にも思いませんでしたよ。沖田先輩」
「あはは、嫌だなぁ、僕は女タラシなんかじゃないよ?タラシって言うのは左之さんみたいな人を、」
「原田先生はタラシなんかじゃありません!!」
「…ナマエ、空気読め」


原田先生が大好きな彼女にとって、確かに今のはいただけないだろう。


「あれ、もしかしてナマエちゃん、もうタラシ込まれちゃってる?」
「沖田先輩!!いくら先輩でも、これ以上言うつもりなら許しませんよ?!」
「あっははは!!冗談だよナマエちゃん。君って意外と騙されやすいんだね?」
「ち、違います!原田先生関係には盲目なだけです!!」
「それ、言っちゃうんだねナマエ」


ああ、落ち着いてご飯が食べたい。


「斎藤先輩、沖田先輩っていつもああなんですか?」
「……肯定はしないが、否定はしない」
「………はあ」


なんだか、とんでもない先輩に出会ってしまった気がする。


「ところでなまえちゃん、さっき僕に憧れてるって言ってたけど、惚れてはないの?」
「はい」
「うわ、面と向かって言われると傷付くなぁ」
「沖田先輩が言ったんじゃないですか」
「……なら、」


そう言って沖田先輩は箸を置き、そのまま体ごとずいっと私に近づけてきて、顎をくいっと持ち上げた。
私は必然的に沖田先輩の綺麗な深緑の瞳と目が合わさる。


「僕が、惚れさせてあげようか?」


普通なら、恥ずかしがるところだが、今まで剣道一筋でやってきたから、まともな恋愛はしたことがなかった。故に私は、


「あはは、できるもんならやってみてくださいよ、沖田先輩」
「…………」


多分、かなり予想外だったんだろう。沖田先輩や斎藤先輩、ナマエまでもが豆鉄砲を食らったような顔をしている。


「……君、可愛くないね。少しくらい赤くなってもいいんじゃない?」
「生憎、男には免疫あるので」


私の場合、経験が無さすぎるから逆にときめかないだけだけど。


「まあ、そういうところも面白そうだからいいけど」


そういって沖田先輩は携帯を取り出すと「じゃあ、まずはアドちょうだい」と言い寄ってきた。


「えー」
「いくらなんでも、それは無理だよ。それに、剣道部にいるつもりなら部長である僕とは必然的に交換しなきゃダメなの」
「まあ、それなら………仕方ないですけど」





こうして始まった私の初恋。
けれど、そう簡単にはいかなかった。



恋の新芽
(ぎゃあああ!!本鈴鳴っちゃったよ!?)
(なまえ、走ろうか)



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