「黙って聞いてれば好き勝手にごちゃごちゃと…」
「っ!」
「シエルさん!?」


いてもたってもいられず、私は引き金を引いた。聞かない方がよかったんだろうかとか、タイミング悪かったなとか。…視界の端に映った悲痛な表情を浮かべるエドワードを前に、余計な考えが頭の中を支配してしまわないうちに、引き金を引いた。銃なんてろくに扱ったことが無かったからその場しのぎで撃ったようなものだったけど、アイザックの注意を引くには十分だった。


「敵に対してずいぶん饒舌なんですね。…イシュヴァールの英雄が聞いて呆れる」
「なんだ?貴様は」
「葵の錬金術師、…とでも名乗らせていただこうかな?」


___パン!


胸の前で手を合わせる。胸元にあるペンダントが煌煌と青白く光りだし、稲光とともに周囲を包み…一本の氷の剣を錬成する。
そうして勢いよく駆け出してその剣を振りかぶる。


___ガァン!!


「貴様、そのペンダント…もしや…!?」
「……忘れてるわけじゃないんだ」


アイザックは瞬時に錬成した同じような剣で応戦する。
体制的には対応が遅れたアイザックが不利だったが力の差は歴然としていて、私が押していたがすぐにはじき返されてしまった。


「はっ、忘れねえさ!あいつはおもしれえ奴だったからな!!」


___私はどうもこの男のことが気に食わない。


「『叩きがいのある面白い奴』…の間違いじゃなくて?」
「そんなカリカリすんなよ、おめえが俺を嫌ってんのは昔っからわかってたさあ!!」


アイザックとは直接話すのは初めてだった。けれど私は昔からこの男を知っている。…なぜならアイザックはかつて『氷雪の錬金術師』と呼ばれた私の…父と知り合いだった。
イシュヴァールにいた氷雪系の錬金術師は父さんとこのアイザックのただ二人であり、表面上は同じアメストリス軍だったが…周囲の絶え間ない両者の比較により次第に敵対していった。

アイザックの錬金術は手荒で豪快、しかし攻撃範囲がずば抜けて広いことから自然とアイザックの名は広がっていった。父さんは気にもしていなかったけど、私はそれが、…どこか少し悲しくて悔しかった。


「敵を討ちにでも来たのか?」
「「!?」」


アイザックの言葉にかすかにエドワードたちが反応したのがわかった。どんどん眉間に皺を寄せていくエドワードとちらりと視線を合わせる。


「大口をたたくのもいい加減にして!!…別にあなたのことを敵だなんて思ってませんよ」


強いて言うなら、嫉妬だった。年端のいかない小さな子供が抱く、ちっぽけな嫉妬。
でも私はそれを理由に剣を取っているわけじゃない。…仕事に私情を挟むのは好きじゃない。でもだからといって仕事だから…アイザックに向かっているわけでも、なかった。


__キィイン


私の言葉を聞いたアイザックが気味の悪い笑みを浮かべ、私に向かって剣を振り下ろし鍔迫り合いになる。
…当然、力で勝てない私は押し負ける形になる。


「貴様に一つ聞きたいことがある」
「っ、な、んですか」


アイザックの重い剣をなんとか受け止める。足下は彼によって作り出された氷の壁。一歩間違えて滑ったりなんかしたら…間違いなく重傷を追うことになる。


「貴様の母親はどこにいる?今何をしている?」
「!?」


私が一瞬気をそらしたのを見逃さなかったアイザックはそのまま私を押し飛ばした。私はそのまま払われた剣を下に突き立てて勢いを殺して立ち止まり、構え直す。

『戦いの途中で冷静さを失ってはいけない。決して敵から目を離すな、隙を逃すな』

かつてロイさんが教えてくれた言葉が頭をよぎる。__そうだ、冷静さを失ってはいけない。私はこの…怒りに似たような感情を押し殺すように、答えた。



「あなたには…関係ありませんよ」
「あるんだよ」
「…勝手なこと言わないでください。あなたとアイツに何の関係があるんですか」


私が吐き出すように問いかけると、アイザックはなぜか…不気味なほどに怪しい笑みを浮かべた。


「そうか…貴様はなにも知らないんだな。ならかまわねえ。ただ…」
「……っ」
「もしアイツに会ったなら伝えとけ!いつか必ず俺の手でお前を殺すってな!!」
「!?」

__ヒュッ
__ガン!

握り直した氷の剣をアイザックに向かって槍のように投げ飛ばす。その剣を囮にして、アイザックの足下の氷を水へとかえて足場を崩す。


「はっ、ようやっと表情を変えたな!敵前で仏頂面で構えるところは父親そっくりだ!」
「…あなたは、何を知ってるの」


しかしそれも意味が無く、アイザックにより足下はまた氷に変えられてしまった。
そしてわずかに手に着いていた水を振り払い、小さな氷の刃にして私へと飛ばしてその隙に一気に間合いを詰めて斬り掛かってくる。
剣を手放してしまった今私は丸腰だった。しかし相手は元軍人で国家錬金術師であり、一瞬でも気をそらせば命に関わる可能性がある。…剣を錬成してる暇なんて無く、ただかわす事しかできなかった。


「それをきいてどうする?」
「あんたには関係な、…っ!?」


かわしきれなかった剣先が頬をかする。
冷静さを欠かれ、焦らされている___そうわかってはいたけど、なにもできない自分にひどく嫌気がさした。


「さっきからそればっかだなあ!そういう強情な所も父親そっくりだ!!」


そうして前を見たときには、既にアイザックの剣は目の前まで迫っていた。






結局私は戦士ではなかったのです。

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