戦が続き、皆憔悴した顔で本部の小さなテントの中いつ死ぬかもわからない体を休める。
こんな大砲や銃声が聞こえるテントじゃ十分に休めないだろうに。
そう思いながら、会話も何も聞こえない、まるで死体でも座っているかの様なテント内に腰を下ろす。
ため息すら出ない、ただうつろに地面を眺める。

しばらくして、テントに光が射すとともに「中佐、」と呼ぶ声が聞こえ振り向くと、そこには部下の姿があった。
国軍少佐サーシャ・カートン。二つ名「煌命」を持つ彼女は医術に長けた錬金術の使い手で、この殲滅戦において負傷した兵士を治療をする治療班の班長をしている。
彼女はそのまま私の隣へと座り込み、覇気のない顔で「サーシャ・カートン、戻りました」と軽く敬礼した。

「……珍しいな、君が部下面するなんて」
「…あなたの部下でいれたことに誇りを持とうと思って」
「それは嬉しいな」

私がそういうとサーシャは私の方にもたれるように頭を傾けてそのまま目を伏せた。
彼女はいつもこうだ。まったく、家庭を持っている女がどこぞの男にこんな態度を取るなど旦那が知ったらどうなることやら。

しばらくの沈黙の後、ふいに彼女が銀時計で時刻を確認した。

「もう、行かないと」
「…あぁ、そうか」
「……いかないと」
「……あぁ」
「…さっき、あなたの炎の巻き添えになったっていう軍人がいたわ」
「すまなかったと伝えてくれ」
「『見境のない人間兵器様ほど怖えもんはねぇよ』って言っていたけれど」
「…はは、たしかに、そうかもな」
「私だって人間兵器のはずなのよ。自分が死ぬかもしれないという脅威にすら晒されないけれど、私は、何の罪もない人間を殺している人殺しの傷を癒すとんでもない人間兵器。きっと、私が戦に出て死んでしまえばアメストリス軍は回復する手段を失ってすぐに終戦命令を出すでしょうね。……でも、あなたやあの人のことを思うと、死んでほしくないって心の底から思う。…だから、助け続けるの。きっと私が助けている人殺したちも、私と同じように死んで欲しくないって思ってくれている人がいると思うから」
「………」
「……ねぇ、ロイ」
「…なんだ」
「お願いがあるの」

サーシャは軍服のポケットから一枚の写真を取ると私に手渡した。
私はその写真をまじまじと見る。

「娘が旦那に憧れて錬金術師になりたいってうるさくて。私もあの人も反対しているんだけどなかなか聞いてくれないのよ」
「…君ににてずいぶん可愛い子だな」
「シエル、って言うの。どっちに似たのかわからないけど、活発で好奇心旺盛で、ほんと手のかかる子よ。でもまぁ、さすが私たちの子ね、才能だけはあるわ」
「はは、想像がつくよ」
「…だから、もし、私たちが生きて帰れなかったら

あの子が国家錬金術師になんてならないように、あの子を見守り続けてほしいの」

「……‥」
「…じゃ、もう行くわね」
「……死ぬな、」
「ごめん、ロイ」
「っ、死ぬな!命令だ!!」

その会話を最後に、彼女は二度と私の前へ現れることはなかった。





彼は何故恋をしないのか

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