深夜、月明かりが僅かに届く林道。
盗賊狩りの帰り道だった私とリナさんは、辺りに充満する不穏な気配に足を止めていた。
先程まで聴こえていた、鳥の声も虫の声も…今はなにも聴こえない。
私たちに届くのは、木々のざわめく不気味な音だけだ。
「リナさん…様子が変ね。」
「…何もったいつけてんのよ!姿、表しなさいよね!」
挑発するようなリナさんの声に、ゆらり…と姿を現した、黒い影。
奴の放つ気だけで、背中を冷たい汗が走る。
「…何者よ。」
「リナ・インバース。だな。」
背筋がぞわりと震える程、低い、黒い声が響く。
「…ええ。」
「お前の命、頂きに来た。」
そう静かに告げた彼は、直後に飛んだ!
リナさんも咄嗟に体制を整える。
―――…これは…所謂暗殺者というやつか。
「フレア・アロー!!」
流石に発動が早い!!リナさんの放った、光は、
黒ずくめの暗殺者の右肩を薙ぎ、がくりと、膝を落とした。
―――…ああ、やっぱり、リナさんにかかったら敵じゃないのね。
と。
安堵した瞬間。
ぎろり、と気味悪く光る暗殺者と視線がぶつかった。
――――!?
―――まずいッ!!!!
悪あがきで放たれた、彼からの光の刃。
こいつっ!術も使えたのか!
それは、真っ直ぐに私に向かっていた。
「you!!!避けて!!!」
リナさんの叫び声が遠くで聞こえる。
逃げなきゃ!!逃げなきゃ!!
―――どんなにそう思っても、私の脚は恐怖に竦み、自由に動くことが出来ない―――!!
「you!!」
突然、視界の中にリナさんが現れる。
私の盾になるようにして、迫りくる光の刃の前に立ちはだかった。
景色は、スロー、モーション。
―――――だめ!!それじゃリナさんがッ――――!!
思った瞬間。
目の前にいたリナさんの姿は瞬時ににして消え。
障害物を失った光の刃が、見事に私の身体を貫いた。
ぐらりと揺れる視界の中で、リナさんを抱えたゼロスの姿が見える。
―――――ああ。
私をかばおうとしたリナさんを。ゼロスが助けたのか。
と、理解するのはすぐだった。
ずるり、と倒れる自身の身体と共に。
ゼロスとリナさんが駆け寄ってくるのが解る。
そして、私を呼ぶ声。その声は、やけに遠い。
――――…やだ、ゼロス。なんて顔してるの?
今にも泣きそうな顔のゼロスを見て、そう笑い飛ばしてやろうとするが―――…
おかしいな…声が出ない。
…もしかして。私もう…駄目なのかな―――――。
ああ…こんなところで終るんだったら、貴方に、大切なこと伝えておけばよかったな…。
ずっとずっと、ずっとずっと、伝えられなかった、この大切な気持ち。
零れる、涙。
だんだんとグレーアウトしていく視界と共に。
…―――私は意識を手放した。
ゆっくりと。
瞳に光が戻る。
私が目を覚ましたのは、ふかふかのベッドの上だった。
強い眩暈と、今まで味わったことのないような激痛とで、私は思わずうめき声を上げた。
何とか呼吸を整え、気がつけば、私の傍らに佇むゼロスの姿。
けれど、その表情にはいつもの笑みは無く。
口を開いた彼の言葉は、若干声のトーンも低い。
「……怒っていますか?」
「何がよ…。」
「僕がリナさんを助けなければ、youさんはそんな怪我負わなくてすんだんですよ?」
「はは…。私のせいでリナさんがこんな怪我を負ったら……罪悪感で自害してたわ、私。」
「―――……。」
「――――…どうせ、獣王さまからまたリナさんを監視しろ…とかって命令でも出てるんでしょ?」
「ご明察です。」
「やっぱりね。命令を守ったゼロスは偉―――――」
その時。
不意に見たゼロスの表情が、あまりにも険しくて。つらそうで。
私は思わず口をつぐんだ。
すると、私の右手を、ゼロスがきゅっと掴む。
「―――――僕は。youさんがあの場に倒れた時。死んでしまうのかと―――――不思議ですね…魔族の僕が、人間の死を素直に受け止めることができなかった。」
「……ゼロス…。」
「そして。今youさんがこうして生きていることに……安堵しています。」
擦れて絞り出したようなその声。
真っ直ぐ見詰めるその紫の瞳からは、困惑の色が滲む。
―――ああ。それじゃあ―――まるで…。
彼の、うなだれたその仕草に。
私は堪らなくいとおしくなって。
あの時、伝えようとした言葉を、言葉にのせる。
「―――ゼロス。私は、貴方のことが、好き。」
驚きの表情を見せたゼロス。
やがてそれは、困ったような笑顔に変わり。
私の身体は、ふわりとゼロスの腕の中に包まれた。
傷をいたわるように。
―――やさしく、やさしく。
壊れものを扱うみたいに、
たいせつに、たいせつに。
「――…認めましょう。僕も、youさんのことが…好き…みたいです。」
いとしく響く、その言葉は
私の耳元に優しく降り注ぐ。
――ああ、私はその言葉が聴きたかったのだわ。と。
その情けない彼の体を、めいいっぱいの愛をこめて。
抱きしめ返した。
――――――
――――――
るな様
キリ番200おめでとうございます!
ゼロスの切甘ということで、精一杯書かせて頂きました!
ちゃんと切甘になっているのでしょうか…;;不安で仕方ありませんが;
私の力不足ゆえ、るな様の求めていた物と違ったら申し訳ないのですが…
貰っていただけると光栄です★
リクエストありがとうございました!
これからもよろしくお願いします★ 2011/06/20