リナさん達を宿に残し、私とゼロスは家に戻ってきた。
当然、資料館にも向かったが、収穫はゼロだった。


―――――――…それにしても。

…あんなに温かい人たち…。初めてだ。
私は彼女らの言葉に甘えて、一緒に「どうにかする方法」を
見つけてもらうことにした。

…「どうにかする」というのは、もちろん
どうしたら魔族にならず、殺されもしないか、ということ。


私たちが話しあっている最中でも、ゼロスは其れを笑顔で聞いているだけだった。
……余裕…ってところなんだろーか。
もしかしたら、か弱い人間如きが出す稚拙な案を、密かに小馬鹿にして
楽しんでいたのかも知れない。

…だとしたら、相当の嫌な奴だな。

ちらりと横目で見やると、ゼロスは不思議そうな表情を浮かべて小首を傾げた。

「どういうつもりなの?」
「何がですか?」
「……私が魔族になりたくないって言ってるんだから…早く殺してしまえばいいのに。
あなた、最初に言ったじゃない?魔族にならなかったら殺す、って。」
「いやぁ、カナさんをそうやすやすと殺してしまうのはもったいないんです。
それ程に強い力を持ってるんですよ?最終手段としては始末するしかないですが…
……まぁ、その辺りはこちらにもいろいろと理由がありまして。」
「…理由…ってなんなのかしら?」

そう聞く私に、彼はいつものポーズで
「秘密です。」
と言った。

どうやら…。
まだまだ裏があるらしい。
が。きっと私が考えても解るようなことではない。
今はゼロスの手の内で、踊らされているしかないのだ。


今日話を聞いてきたところによると、リナさん達はある理由で旅をしているらしかった。
ひとつは、ゼルガディスさんの体を元に戻す方法。
ひとつは、ガウリイさんの為の「光の剣」と同等の剣を探すこと。
あ、あとアメリアさんが正義の心を世に広めるため、とか。

こんな村で燻ぶっていても行く末知れている私は、その度に同行させてもらうことにしたのだ。

――――――幸か不幸か…この村への未練はさほど無い。

明後日の出発に控えて、私は着々と準備を進めた。
…旅なんてしたことないから…何持って行けばいいのかわからないのだけど…。
敵に襲われてた時の為に…武器とか防具は持っていた方がいいのかな?


――――――――――今のところ一番の敵は、私の隣にいる彼なのだけれど……。

ゼロスは、私の作った紅茶が珍しいのか、棚に並ぶ瓶詰めのハーブを手に取ったりしていた。
私から向けられたじろり、という目線に気がついたのか、
「どうしました?」
とのんきに聞いてくる。


「や、もしゼロスに殺されそうになった時の為に、武器と防具くらい用意しとこうかなって。」
「僕は魔族ですから、物理攻撃は聞きませんよ?」
「そうだけど……あ、じゃぁどうやったらゼロスを倒せるの?」

手に取っていた瓶を棚に戻し、呆れたように彼は笑って言った。

「そんなこと、僕本人に聞かないで下さいよ…。」
「だって、ゼロスは敵じゃない。」
「―――はぁ……敵…ですか…。僕としてはカナさんと『仲間』になりたいんですよ?
その純情な乙女ごころ、解っていただけません?」

「わかんない。」

私の即答に、ゼロスはずる、とこけた。

「まいいや、明日旅の準備に一日貰ったから。お買いもの、行ってくるね。ゼルガディスさんと。」
「……ゼルガディスさんと、ですか?」

ゼロスが訝しげに眉根を寄せた。
…ああ。二人はあんまり仲が良くないんだっけ?

「私じゃ旅に何が必要なのかわかんないから。たまたまゼルガディスさんが空いてる
っていうから、一緒に見てもらうことになったの。」
「…へぇ…なるほどねぇ。…では、楽しんできてくださいね。」

彼は軽くそういうと、ふっと姿を消してしまった。


……?
なんとなく、不機嫌そうに見えたのは気のせいだろうか?
あ。もしかしてやきもち妬いたとか―――…

「いや、ないないない。」

有り得なすぎて、つい声をだして否定してしまった。
きっと、また上司にでも呼ばれたのだろう。


私はさっさと夕食の支度を始めて、早めの食事を取った。
ここ最近、食事はゼロスと共にとっていたせいか――――…

――――――――一人きりの食卓が、なんだか寂しく感じてしまった。



list
>>clip('V'