「で?何かまた裏でこそこそとやってるってわけ?」

―――――…宿屋に居たのは、4人組の旅の者達だった。
騒ぎを起こした張本人の、リナという少女。(ぼったくりの様な料金に意を唱えただけとのこと。)
金髪美青年のガウリイさん。
巫女らしいアメリアさん。
白ずくめのゼルディ……ゼルガディスさん…。

――どうやらこの4人……魔族であるゼロスと知り合いであるらしい。
…尤も、「嫌な知り合い」であることは4人の態度から見て取れた。

落ち着いて話ができたのは、宿屋の一件を丸く収めた後のことだった。

「いやぁ、お久しぶりですねぇ。皆さんお変わりないようで。」
「まーね。で、なんでまたゼロスがここにいるわけ?…」

リナさんが宿屋の店主からお詫びとして出された果物をぱくつきながら、
ゼロスにちらりと目配せした。
うー…ん。とんでもなく信用されてないんだなぁ、ゼロスって…。


「ここでリナさんたちとお会いしたのは、本当に偶然ですよ。何しろ、今回の用事はこちらの
カナさんに、ですので。」
「ふぅん…見たところ普通の人間だが…。お前さんも厄介事に巻き込まれてるのか。」

ゼルガディスさんが、哀れみを込めた声で言う。
厄介事って…と異論を唱えるゼロスを無視して、私はこくこくと頷いた。
やっぱり…この人たちにとってもゼロスは厄介事、歩く災厄でしかないんだろう。

「はっ!ゼロスさんもしかして―――!!」
アメリアさんが突如イスから立ち上がる。
顔を引きつらせながら驚くゼロスに、びしぃっ!と指を指した。

「リナさんのときみたいに、またうら若き乙女の監視なんてしてるんじゃあないでしょうね!?」
「え…いや、まぁ…今はカナさんを監視しておけという命令ですので……」
「やっ…やっぱりっ…!リナさんならともかく、こんなか弱くて可愛らしいカナさんの監視だなんて!
どーせゼロスさん、監視と銘打って着替えとかお風呂とかまで覗いてるんでしょう!」

をい。とリナさんのつっこみが入るが、…熱いアメリアさんには聞こえていないようで。

「…あの〜…アメリアさん?僕は魔族ですから…そう言ったことに別段興味は…」
「や〜。ゼロスってそういう趣味があったのか〜。」
「ちょっ…ガウリイさんまでそんな…!誤解です…」

成り行きを見守っていた私の手を、がしぃっ!!とアメリアさんが掴む。
びっくりした…。
「大丈夫です、カナさん。私がお守りします!!」
「え?え?…あ、ありがとう…?」
「覗きがどーとかは置いといて。確かに、このまま放っておくのも気分悪いわね。
――――ゼロス。話を聞かせてもらえるかしら?カナに付きまとってる理由を。」

リナさんが、挑発的な笑みでゼロスをまっすぐ捉えた。
「それは――――」
す、とゼロスの人差し指が、口元へ運ばれる。
「秘密です。」

ぱちりとウインクひとつ。
茶化して返すゼロスに、全員がやっぱりね。という表情を見せた。
…そして、リナさんが私へと向き直る。
…ん?
「じゃぁ、カナ。あんたに聞くわ。貴女は何故ゼロス何かに付きまとわれてるの?
多少はワケ、聞いてるんでしょ?」
「う…うん、まぁ。…でも―――…」
「はい、リナさん。この辺で詮索をやめてもらってもよろしいですか?」
「煩いわ、ゼロス。私はカナに聞いてるの。文句ないでしょ?」

……そう言われ、やれやれといった風に頬の辺りをぽりぽりとかくゼロス。
――――話してしまいたい。…でも。



――――――話したところで何かが変わるのか?
いや…そんなことよりも……。

―――――――――――――――この4人を…巻き込んでしまうんじゃないか?
好意は、とてつもなくありがたい。
……………でも。


―――私なんかのせいで、見ず知らずの、しかもこんなにいい人そうなひとたちを
危険な目に晒すわけにはいかない…な。


一通り考えを巡らせ、私は小さく口を開いた。
「私は…今とんでもなく面倒なことに巻き込まれてるみたいなの。
でも――――こんな話をしたら、もしかしたらリナさん達に危険が及ぶかもしれない、でしょ?
そんなの嫌。だから、この話は、できないわ。――――ごめん。」
「………………。何言ってんのよ。つらそうな顔して。」

―――つらそうな、かお?
そんなのしてたの?
―――…私の本心は…頼りたがってる。


「それにしても…珍しいですねぇ。リナさんが自らトラブルに関わろうとするなんて。」
まるで他人事のように、トラブルの張本人ゼロスが言う。
まぁね、と笑ったリナさんは、再度私にこう言った。

「カナが言いたくないならいいわ。でも。
困ってるとか助けてほしいとかだったらすぐに頼ってちょうだい。」
「そうです!微力ながらお助けしますよ!」
「ああ。厄介事には不本意ながら慣れているからな。」


「で、でも…もしあなたたちに何かあっ―――――」
「見て見ぬふりで保身ばかりを考えて一生過ごすより、問題に立ち向かって潔く死にたいわ。
生憎、そういう性格なの、あたし。」
私の言葉を遮って、リナさんはいたずらっ子のような笑みをした。

ちらり、とゼロスの表情を窺うと、彼はやれやれと呆れた笑顔でいた。
其れに気がついたゼロスも、私の方をみて意味ありげに首をかしげる。
…お好きにどうぞ。といったところだろう。

そもそも…彼はリナさんたちに計画がバレるのはさして問題ではないらしい。
さっきは「秘密です」とかなんとかほざいていたが…。

―――恐らく。リナさん達がこの話を聞いてゼロスを倒しにかかっても…
彼にとっては


ええぇぇえ――――いっっっ!!!
もやもや悩んでても仕方ない。
事が進むわけでもないし解決するわけでもない。

「お話します。」


――――私は静かに言って、4人の顔を見回した。


自分自身でも、今の状況を把握する為、
解っていることをひとつひとつ説明した。



私が何かの実験によって、ものすごい力を与えられた、ということ。
そしてどうやら其れが原因で、魔族にスカウトされているということ。
仲間にならないのであれば、魔族の邪魔者…すなわち始末されるということ。

私がゼロスに聞いた知りうる限りのことを話した。
其の間誰一人言葉を発しず、当の本人であるゼロスも飄々としたふうだった。

「……なる程、ね。」
全てを聞き終わったリナさんが、ポツリと言った。
「私としては…魔族になりたくはない。でも、殺されるのも嫌。
だったら、何か他に手立てはないかと…。ゼロスには回答を待ってもらってるところ。」
「え、いいんですか?そんなことゼロスさん本人の前で言っちゃって…。」

「まぁ…言わなくてもそれくらいゼロスにはお見通しだと思うから。
万が一それで何かがあった場合のために…すぐに私を始末できる用にゼロスは監視してるんだと思うし。ね?」
「…ええ、まあ。」
「だったら、いつ言っても関係ないよね。」


「さて。私が話せることはこれくらい。ごめんだけど、私もあんまりゼロスから聞かされてないの。
ゼロスのことだから、まだ何か裏がありそうだけど…とりあえず、踊らされているつもり。」
言った私に、リナさんが手を差し伸べた。

――――…握手?

「自慢じゃぁないけど。私も魔族にスカウトされたことはあるの。
まぁ、こうして生き延びてるわけだけどね。」
「……ほんとに自慢じゃないよな…」
横から口出ししたガウリイさんに、リナさんの鉄拳が飛んだ。
そして、何事もなかったかの様に続ける彼女。

「そこいらの魔道士よりかは、魔族に対抗する知識も持っているつもりよ。
どう?あたしたち、力になれないかしら?」


私はその温かな手を、掴んだ。




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