開け放った窓から、爽やかな風が吹き込む。

あれから4ヵ月。
私はもとの街へ戻り、小さな花屋を始めた。

ゼロスと別れたあと、みんなのところに戻った私は、生まれ育った街で一からやり直すことを決心したのだ。

とんとん、と窓を叩く音。


――――ああ。来た。いつものお客さまだ。


窓を振り向けば、そこには神官姿の、青年。

「いらっしゃい、ゼロス。」
「こんにちは。今日も来ちゃいました」

そう言っておどけたように笑うゼロス。

「いらっしゃい。お茶でもどう?いまハーブティーを淹れてるところなの。」
「ええ、お言葉に甘えていただいちゃいます。」




あの別れを遂げたあと。
1ヵ月もしないうちに、ゼロスは私を訪ねてきた。

もう二度と会えないと思っていた私は心底驚き、
「どうしたの!?また何か厄介事なの!?」
と、今思えばものすごく失礼な一言を放ったのだが、ゼロスの答えは
「いやあ、なんだかカナさんに会いたくなっちゃいまして。」
という、素直なものだった。


それ以来ちょくちょく顔を出す。


「中間管理職がこんなところで呑気にサボってていいわけ?そりゃあ…私は嬉しいけどさ…」
「仕事の合間にちょっと寄らせていただいただけですよ。」
「ふうん…。せいぜい獣王様に怒られないようにね。」
「はっはっは。ご心配には及びませんよ。寛大な御方ですから。」

そう笑って、私の出した紅茶をおいしそうにすすった。

彼が上手く弁解したのか、はたまた人間と魔族の恋という稀なものに興味をひかれたのか。
獣王は私の生存を認め、きっと今もこうしてゼロスが遊びに来ているのを黙認してくれている。

――――…あくまでも、今のところ、なのだけど。

…この先が解らないとしても、あの時永遠の別れを覚悟した私にとって、
ゼロスとこうしている時間は夢のように幸せで。
びっくりするぐらい、自然と笑みがこぼれてしまう。


「さて、僕はそろそろお仕事に戻りますよ。おいしい紅茶、ごちそうさまでした。」
「あー…そっか。いってらっしゃい」
「…っと、その前に。」

彼の優しい手が延ばされて、ふわりと私の体をつつみこむ。
―――充電です。
とかわいく囁いたゼロス。
ぎゅっと抱きしめられた私は、そのゼロスの感触になんともいえない幸福感を味わった。

ああ――――…しあわせだ。


「ゼロス……すき。」

私の呟きに笑顔で頷き、私の顎を軽く持ち上げたゼロス。
そして落とす、熱い、甘い、とろけるような―――キス。
優しいゼロスの舌は、私をゆるりゆるりと侵す。




こうして私たちは、二人で歩む道を選んだ。

正しいのか、間違ってるのかさえ、解らない。
答えなんてないのかもしれない。

―――――ただ。

変わる景色の中で、
彼の笑顔が変わらずに有るのならば―――
私には何も怖いものなどないのだと。

悔しいから彼には秘密で。
こっそりと思った。



goodend





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