「ラグナ・ブレード……ッ…!!!」

リナさんの両手から、途方もない闇が生まれ、刃と化す。
その巨大な刃は、おそらくリナさんの奥の手だ。

リューダルの隙をみて、一直線。
彼に向って、その闇を振りおろした。

――――しかし。

「……ッ…くッ……!!甘いねッ!!」

リューダルの顔は苦痛に歪められているものの。
一瞬のうちに防御結界を張ったのか…ラグナ・ブレードは直接彼の身体を薙ぐことができていなかった。
その表情に、―――にやり、と笑みが戻る。

「…!!リナさんっ!!逃げて!!」

ぞくり…と冷たいものが背中を走り、
瞬間、私は叫んでいた。
しかし――――逃げている間などなく。
リューダルの放った魔力に、リナさんの華奢な身体はいとも簡単に吹き飛ばされた。

「きゃああああっ!!」
「リナさんっ!!」

「くっくっく…やだなぁカナちゃん。そんなつらそうな顔しないでよ。彼女達は珍しく力を持った人間たちだからなぁ?
簡単に殺したりはしないよ?―――…ほら。あとで、実験…しないといけないでしょ?」


リューダルは私に向き直り。
どんな魔族と融合させようかなあ?
と。
まるで夕食のメニューを決めるような、そんな呑気な口ぶりで言った。



…―――――許せない。



「ゼロス。」
「なんでしょう?」

リューダルに聴こえないように。
私はそっと囁く。

「私、強いのよね?」
「ええ。勿論。」
「…耐えられるかしら?」

私の質問で全てを察したのか。

「カナさんなら大丈夫です。」

と、ゼロスは静かに頷いた。

ああ――――…なんだか…。
ゼロスにそう言ってもらえると、ほんとに出来る気がするな。




――――闇よりもなお暗き存在。

――――夜よりもなお深き存在。



ゆっくりと身を起こしたリナさんが、ふ、と笑みを見せた。
ああ――――…応援してくれているんだ。
そして、信じてくれているんだと。胸の奥が温かくなるのを感じる。



――――混沌の海よ、たゆたいし存在、金色なりし闇の王。



「…何?その呪文――――……まさか…」
リューダルの顔に、焦りが浮かぶ。
じり、と後ずさりするも……

駄目。逃がさない―――。



――――我、ここに汝に願う、我、ここに汝に誓う、



一歩。また一歩と、私はリューダルとの間合いを詰めた。



――――我が前に立ち塞がりし全ての愚かなる者に、

――――我と汝の力もて、等しく滅びを与えんことを。



一言、一言、詠唱する度に、圧倒的な虚無が、私を包む。
―――此れを暴走させれば――――…。
教えてくれたリナさんの言葉と、最悪の事態が脳裏をよぎる。

手放しそうな意識を必死に手繰り寄せる中で、
私の視界に、みんなの姿がちらついた。

リナさん。ガウリイさん。アメリアさん。ゼル。
そして―――…後ろにはゼロスの気配。

ああ。そうか。そうだ。
―――――ここで…!!


ここで負けるわけにはいかないのよ!


「やっ…やめろよ……!嫌だ!!やめろぉおおッ!!!!」

恐怖におののくリューダル。


反対に、私は、自分でも驚くほど静かな気持ちで力ある言葉を解き放った。


「―――――ギガ・スレイブ」

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