ようやく自分の気持ちに気がついたものの。

今はそんなこと構っている場合ではない。

自分の気持ちを整理するのと、ファーストキスを奪ったゼロスに
制裁を加えるのはこの一件がひと段落してからだ。

「一気にいきますよ?」
「わっ…!」

彼は私を横抱きに抱えて、
私の返事を待つ前に、魔族得意の瞬間移動。
慣れない私はぎゅっと目を瞑り。

次に目を開けた時に飛び込んできたものは…

様々な機械。

たくさんの魔法陣の描かれた床。

錯乱している…リューダルの姿。

そして、其れに対峙しているリナさんたちの姿。

…よかった!!みんな無事なんだ!
「リナさんっ !」
「カナ!!あんた無事だったのね!」
「ゼロス…お前その傷…」


はっと息をのんだ全員の視線がゼロスの右肩辺りに集まる。
「僕のことはお気になさらず。
…そんなことより…来ますよ。」

ゼロスの視線の先には、錯乱状態に陥っているリューダルが、
意味のわからないことをぶつぶつと叫んでいる。

「…いよいよヤバいわね、あいつ。」
リナさんが皮肉交じりに笑い、臨戦態勢に入る。


叫び声を上げていたリューダルの動きが、ぴたり、と、止まった。
ゆっくりと、静かに。私たちの方を凝視している。

「なんで…わかってくれないのかなぁ?
俺はさぁ、良くしようと想ってるだけだぜ?世の中をさぁ。」
「悪いけど。あたしはあんたとは違ってね。他人の力を手に入れてまで
長生きしよーなんて思わないわ!あたし、そーゆう性格じゃないのよね!エルメキア・ランス!!」


リナさんから放たれた光が、リューダルを包む!

…しかし…。

「はっ…はははっ…!!その程度で僕に勝てると思ってるの?」

命中した筈のリューダルからは、ダメージなどかけらも感じられず。
くるりと振り向いたかと思うと、私たちを蔑むように笑った。

――――す。と。

掲げられる掌。


―――――――危ないっ!


「アメリアっ!逃げて!!」
「きゃぁあああっっ…!!!」

リナさんの叫びと同時。もしくはそれよりも数秒早く。

リューダルの放った光の光線は、アメリアさんとゼルを薙いだ。

ずしゃり、と厭な音を立てて、地面に落ちる二人。

………嘘っ!!!

「くそぉおおおおっ!!」

魔力を纏った魔法剣を手に、走るガウリイさん!
その剣は、リューダルの胸を見事に捕えた!

――――やった!?

と思ったのもつかの間。にやりと笑みを浮かべたリューダル。

「ばーか。こんなもの俺様に効くとでも思ったあ?」
「!!!!!」

まずいっ!
思った瞬間には既に遅く。
ガウリイさんの身体は宙を舞い、灰色の無機質な壁に叩きつけられた。

――――――嘘。
………嘘でしょ?

たった。
たった5分も立たない間に、アメリアさんも、ゼルも、ガウリイさんもやられてしまった。

…大切な。
大切な仲間が。

―――襲い来る、絶望の波。

ぼろぼろと零れる涙を無視して、口の中でリカバリィの呪文を唱える。
―――…こんな初級の術でどれだけ治癒が出来るかなんてわからないけど…
じっとしていられなかった。


「カナ!あんたはみんなの治療をお願い!」

こくり、と頷く私。
リナさんの口から詠唱零れているのが聴こえた。
これは――――…ラグナ・ブレード…?


役立たずの私は、アメリアさんの元に走り傷口にリカバリィの光を当てる。

――――よかった…少しは私の術でも効果がある見たい…。
うっすらと瞳を開けたアメリアさんが、頼りなくにこりと笑った。



私には。ずっと引っかかっていたことがある。

――――聴くのは怖いけれど。

――――確かめなければ、いけない事がある。

…すう、と深呼吸をひとつ。
そして、背後に佇むゼロスに、向き直った。


「―――ゼロス。聞きたいことが、あるの。」
「?なんでしょう?」
「私は疑問に思ってたの。なんで貴方が私を連れて逃げないか。」
「…ええ。」
「私をあいつと融合させたくないのなら、ここはリナさんたちに任せて私を何処か他の場所にかくまえばいい。ゼロスは瞬間移動が使えるのだしね。―――違うかしら?」
「おっしゃる通りです。」
「だったら、何故私をこの場に置いているのか。理由は――――」


私にしか、リューダルを倒すことが出来ないから。
もしくは
あわよくば、リューダルと私が相打ちになることを狙っているから。


静かに私がそう言うと、
ゼロスは人差し指を立てて。いつものポーズで

「ピンポン♪ご明察です。」と笑った。

「…こんなときでも貴方は相変わらずなのね。…本当の理由はどっちなの?」
「―――どちらも。と、言ったら、怒りますか?」

くしゃ、と笑った笑顔は、いつもよりも切なげで。

「僕の希望としましては――…まあ、魔族の僕がこんなことを言うのもちょっと…あれなんですが。
――――僕は、カナさんに生き残って欲しいと。そう思っていますよ。」


ああ。
ゼロスに利用されているなんて、最初からずっとわかっていた筈じゃないか。

なのに。

なのに。

なんでこんなに苦しいのだろう。
そして、嬉しいのだろう。

私は静かに決意をし。
ゆっくりと術を唱える。


―――――決着の時は、もう、すぐそこだ。

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