室内に明かりが戻る。
私は咄嗟にリューダルの姿を探したが、彼の姿はもうどこにもない。

そして、私の足元には…ゼロスの姿。

「ははは、ちょっと…しくじっちゃいましたね」
「ど、どうしたの、ゼロス!?」

うずくまるゼロスを見て、
私は思わず息をのんだ。

―――ゼロスの右肩から下が、
………ごっそり無くなっていた。
小さく聞こえた、悲痛なうめき声。

見たこともないその光景に、
恐怖が襲う。

「ちょっ…ゼロス!大丈夫!?」

リューダルにやられたのだろう。
…いつものゼロスだったら、そんなのくらう筈ない。
暗闇で目がやられていた、なんてこともない。

暗闇の中で響いた、私の名前を呼ぶ…
――ゼロスの声。

――――もしかして…

「ゼロス!これ…これって…私をかばって…?」
「い…いやぁ、僕としたことが…。
そんなことより…カナさんは大丈夫ですか?」
「う…ん、大丈夫っ…。」

苦しそうな、ゼロスの顔。

私のせいで、
私のせいで!

そう思ったら、ぼろぼろと涙が零れた。

残っている左の手で、其れを優しく拭ってくれるゼロス。

「泣かないでください。僕は魔族ですから…ご心配には及びませんよ。」
「ん…。ごめっ…だってっ…」
「カナさんが無事だったなら安心です。」
「そっ…、ごめん、ごめっ…ゼロ――――」

ゼロスを失ってしまうのではないか、という恐怖と、
そうならなかった安心感とで
泣きじゃくる私。

ぽんぽんと私の頭を撫で、
それでも泣きやまない私に、困った笑みを浮かべて見せた。
そして
ぐんと近づいてきたゼロスは、


――――ちゅ。


と。私にひとつの口づけを落とした。

――――――!?

「ちょっ…!!?なっ…何して……!」
「いやぁ…あんまりカナさんが可愛く泣いてるので。つい、ねぇ?」
「…えええぇ!?信じらんなっ…」
「すみません。でも、ほら、泣きやんだ。」

(一応怪我人だというのに)ばしばしと彼の左肩をたたく私を、
ゼロスは面白そうに眺めて笑った。

「さあ、お話はこの辺にして。行きましょうか。」
「ちょ…ゼロス、立ち上がって大丈夫なの…?」
「ええ。言ったでしょう?僕は魔族なんですから。」

右肩は無いものの、笑顔のゼロス。
その顔が、ふと真剣なものに変わる。

「リューダルさんは、どこにむかったんでしょうねぇ。」
「まさか…リナさんたちを……」
「可能性はありますね。向かいましょう。」

よろりと立ち上がった私を、
大丈夫ですか?
と気遣ってくれるゼロス。

平気だよ、と笑顔を向け。
痛む体で元の部屋へと急いだ。

―――――焦る気持ちとは裏腹に。
私の中にはあるひとつの想いが
ちらついていた。

―――…ゼロスは、優しい。

私が魔族候補だから?

…利用価値があるから?

…だから守るの?だから心配してくれるの?

ゼロスが傷付いているのを見た瞬間。

何とも言えない気持ちが私を襲った。

死なないで。
離れないで。
もっと一緒にいたい。
そんな言葉では表しきれない程、
痛くて、苦しくて、どうしようもない。
心臓を抉られるような――――感覚。

この呼吸さえ、止まってしまうのでは無いかと思った。

その時――――。

私は初めて、自分の気持ちと向き合う。

――――もしかして。

いや。
本当は、とっくの昔に気がついてた。

ただ、見て見ぬふりをしてただけ。


私、ゼロスが―――好きなんだ……。



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