リューダルと共に空間転移をさせられ。
ぐにゃりと歪んだ次に私の目に入ってきたのは、
やはり無機質な…実験室のような景色だった。

「…みんなを…どうするのよ!」

ぐい、と涙を拭いて、リューダルを睨みつける。

「ああ、あれは後で料理するよ。
まずは、面倒なゼロスが現れないうちに、カナちゃんを
料理しなきゃ、な。」
「…何を、するっていうの?」
「カナちゃんの『力』だけを取り出して、僕の中に入れる。
悪いけど、当然カナちゃんは死ぬよ。
まぁ、キミが僕の計画に賛同して協力してくれれば
その必要は無かったんだけど…。」

解りあえないみたいだからね、と
彼は皮肉げに笑った。

左腕を乱暴に放され、私は床にどさりと転がされる。
すぐに状況は把握できた。

この部屋の床には、大きな円陣が書かれていた。
其の中央に、私は居るのだ。

リューダルになにかされたのだろうか――――?
それとも、この円陣のせい――?
体が思うように動かないっ…!


「じゃあ、始めようか。」

リューダルの手にあるのは、
大きな剣。
鞘から抜くと、光を浴びてぬらりと煌めく。

怖い……―――
でも……

襲い来る恐怖の中、私はリューダルを睨みつけ、
叫ぶように言った。

「…ほっ…本当に、貴方の望む世界になると思ってるの?」
「なるさ。」
「きっとリナさんたちが、そんなことさせない!!」
「…カナちゃん、やっぱ、自分の力がどれだけ凄いのか…
まったく知らないんだねぇ。」

剣が、私に向かって振りかぶられた。
リューダルが罵倒する様な言葉を叫ぶが…私の耳には届かない。

ぎゅっ、と目をつむって、
身を硬くして―――…。
そのとき、を待った。


―――――
――――――……



来ない。
次に私に聞こえてきたのは、
剣が床に落ちる音だった。

「随分、好き勝手やってくれますねぇ。リューダルさん。」
「ゼロスっ……!!」

其の声に、
いつもの声に、
私はぱっと眼を開けた。

其処にいたのは、私に向かって手を振るゼロス。

その笑みに、声に、姿に。

―――…私は心から安堵した。
…ゼロス…来てくれたんだ。
自然と零れた涙を、またぐいと拭き去る。

私の足元には、
先程の剣と、恐らく
ゼロスに切り落とされたであろう腕が転がっていた。

血など出ていない。
リューダルが、私とは違い限りなく魔族よりなのだということを
改めて認識させられる。

「カナさん、お怪我はないですか?」
「だ…大丈夫…っ!」
「それは何よりです。」
「くそっ…ゼロス…」
「残念でしたねぇ、リューダルさん。あともうちょっとのところでしたね。」

腕をかばい跪いたリューダルに、ゼロスは告げる。
開かれた、紫の瞳。
私でさえ身震いしてしまうほどの、
リューダルに対する敵意と悪意。


「終わりです、リューダル。」
「…っく!」

ゼロスの杖の先が、す、とリューダルに向けられる。
何も出来ない私は、ダメージの残る体を引きずって
円陣の外へ移動する。

「まだ…!!まだ終わりじゃないっ……!」
「…!」

リューダルの叫び声が、部屋中にこだました。
絞り出すような…悲痛な叫び。
そして、彼から黒い霧のようなものが生まれる!

術!?

あっという間に辺りは暗闇に閉ざされた。


「なんで邪魔するん、だっ…!!
死ね!死ね!!」
「……!!カナさん!」


視界が閉ざされた中、
リューダルとゼロスの叫びだけが聞こえた。

そして、近くで、
何かの崩れる――――音。


―――――嫌な予感がした。
ぞくぞくと、背中を悪寒が走る。


は!と気が付き、急いでライティングの呪文を唱える。
役にたつから、とリナさんに言われ、
教わっていた術だ。


予想通り、私の術で辺りの闇は取り払われる。


霧が晴れ、私の目に飛び込んできたものは。

「ゼロスっ……!!」

私の目の前で
傷付きうずくまる、ゼロスの姿だった。




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