私の居た村から続く、長く細いあぜ道を進む。
私たち5人は、雑談を交わしながら次の街を目指してひた進んでいた。

生まれてこのかた、ろくに村の外に出たことのなかった私には、全てが新鮮で。

何処までも続く緑の絨毯や、自然の香りがするそよ風を全身で堪能することに
必死になっていた。

「大丈夫ですか?カナさん。疲れたら無理せず言ってくださいね!」
「うん、大丈夫。ありがとうアメリアさん。でも、それよりも楽しくって!」
そう答えた私に、アメリアさんも笑顔で返してくれた。

「そーかー、カナは旅は初めてだもんなぁ。リナと一緒は大変だけど、がんばろうな!」
「ちょっとガウリイ、どういう意味よ!」
「早く策が見つかるといいな。奴も、いつまで待ってくれるもんだか
わかったもんじゃないからな。」

ゼルガディスさんがそう言って、ちらりとゼロスを見やった。
僕のことはお気になさらず。
そう言って、彼は私たちから一歩離れた後をついてきていた。

…うーむ。確かに。
どうやら魔族にもワケがあるようだけれど…。

ん……?

突然、周りの空気が変わる。
少しでも動くことが躊躇われるような…なにか。
頭で考えるのではなく、本能がそう告げていた。

リナさんたちを見れば、彼女たちもまた渋い顔をしていた。
すぐに戦闘に入れるような体制を整え、
どうやら、私たちに用みたいね…
とリナさんが呟くのが聞こえた。


―――――――――…
!!!


「っ!きゃぁぁっ!!」
「…!?アメリアっ!?」
突如、アメリアさんの体が宙を舞う…!
受け身のとれなかったアメリアさんは、ずしゃりと地面に叩きつけられた。

同時に、私たちの目の前に現れたのは…

―――――長くゆるいウェーブのかかった金髪を揺らす、一人の男性だった。

「あー…残念はずれみたいだね。カナってコはどの子かな?」
気だるげに頭を掻きながら現れた彼だったが、それとは正反対に
驚くほどの殺気を放っている。


「…あんた…誰?」
「え?俺?まーいーじゃない、そんなことどーでも。」

緊迫した空気の中。
その彼と目が合った。
その瞬間、彼は待ち合わせをしていた友人を見つけた、みたいな表情をして、私へと近づく。

「あ。カナちゃん、でしょ?あたり?」

私は肯定の意味も込めて、きっと睨みつけた。
「よかった、すごい美人だね〜。ちょっと話が………っと…。」

近づく彼と私の間に、入ってきた黒い影…。

―――――――ゼロスだ。

ゼロスもまた、金髪の青年に対して殺気を向けていた。
二人の放つ雰囲気に私たちは動くことができず、ことの成行きを見守っていた。

金髪の青年は、ゼロスを見た瞬間、すっ――…と目を細める。

「随分早いお出ましですねぇ、リューダルさん。」
「…キミ…ゼロス?…ああ、もしかして――――カナちゃん勧誘の阻止?」
「…ま、そんなところですかね。」

ふうん…と呟いたリューダルと呼ばれた青年は、ゼロス越しに私にひらひらと手を振った。
――――勧誘…?
私を仲間にしようとしてるのはゼロスだけではない…のか?
……この二人はどう考えてもお仲間…といった雰囲気ではないし。

「じゃー、ま、今日のところは出直そうかな。カナちゃんがすごい美人だってわかっただけでも
収穫だし。」
「…ちょっと待ちなさいよ。あんた…カナに何の用なの?」
「え?聞いてない?…じゃーその辺はゼロス君にでも聞いておいてよ。今日、俺寝不足なんだよね。」

リナさんの問いかけに、片手をひらひらさせながら答えた彼は、
その台詞を残して宙に消えていった。

―彼も…――――魔族…?

「…どういうこと?ゼロス。私、いろんなところからオファーが来てるの?」
「そうですねぇ………。」

くるりと振り向いたゼロスを、問い詰める。
困った彼は、暫く考えた後、言った。
「そうですね、こうなってしまったら、お話しておきましょうか。」

さっきまでの威圧的な雰囲気は微塵も無く。
ゼロスはにこりと笑顔を見せた。



―――――――――――数時間後。
野宿の準備を終え、5人は焚火のまわりへと集まった。
辺りは冷え込み、炎の熱が心地よい。

「ええと。何処からお話しましょうか。」
話を始めるゼロス。


今私の身に起こっていることがいったい何なのか。
ようやく、はっきるする時が来たのだ―――――――――。



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