今日は、全くのいい天気。
乾いたすがすがしい風が、私の髪を優しくなでていった。

宿屋の前で待ち合わせをしていたゼルガディスさんと合流し、
いざ、魔道屋へと進む。
目立つことを避けてか…ゼルガディスさんは昨日と変わらぬ白いローブを纏っている。

大通りの商店街を、人をよけつつ進み、辿りついたのは武器や防具を売っている、
旅人向けの店だった。
薄汚れた店構えに、暗い雰囲気。
お世辞にも、繁盛している、とは言えなかった。

「どんなのが良いのかな…」
「そうだな、お前さんくらいならショートソードでいいんじゃぁないか?」

そう言って、ゼルガディスさんは一本の剣を差し出す。
赤い装飾の着いた、綺麗な剣…。
―――が。
武器などもったことのない私にしてみたら重くて仕方がなかった。

「おっ…おもっ…!!」
「はは、まぁ、旅をしてるうちに扱えるようになるさ。」
「う、うん…がんばる…。」


面倒な術や呪いが掛けられている商品もあるから、不用意に品物を触るな、
とゼルガディスさんに教えてもらい、私はなんとか、旅の相棒となるべき剣を見つけた。
…ほんと、一緒に付いてきてもらってよかったなぁ…。
私ひとりで来ていたら、今頃大量の呪いをお持ち帰りしていたことだろう…。

続いて防具。
これもゼルガディスさんに品定めしてもらい、鎧などを付けて歩けるほど体力のない私は、
生地自体に特殊な防御加工のされたワンピースを選んだ。
あと、寒くないようにマントとブーツ。

店のおばちゃんはどうやら私のことを知っているらしく。
持って行きな、と大きな花の髪飾りをサービスしてくれた。





「さて。他に必要なものはないかな?」
「ああ、調達終了だな。…それにしても…いいのか?」
「え?なにが?」

買い物のひと段落した私たちは、カフェのテラスで昼食のサンドイッチをぱくついていた。
ゼルガディスさんの質問に心当たりのない私は、頭の上にたくさんの?を浮かべる。

「…いや、お前さん、どうやらこの村でも有名みたいじゃないか。
それを、いきなり旅に出るなんて…。生まれ育った地なんだろう?」

ああ、そういうことか。
と、私はもぐもぐしていたサンドイッチを飲み下し言う。

「ん―…有名っていうのかな?お金持ちだった私が、突然両親をなくして孤児になってしまったから。
だから、なんていうのかな、村の人たちから見て『あの事件のかわいそうな子』でしかないの。」
「そうか…すまん。」

気まずそうに謝る彼。

「あ、ううん、全然気にしてないからいいの。
心配しないで、私ね、旅にでるのすっごく楽しみにしてるのよ?」
「ふ…そうか。リナとの旅は大変だぞ?」
「うん…なんか…想像付かないくらいに大変そうだけど…」
「俺やアメリアなんて、便利なアイテム扱いだ。…ああ、ゼロスのこともだな。」
「魔族まで?ふふ、なんか、さすがリナさんって感じ。」


落ち始めた太陽が、辺り一面を赤く染める。
先ほどまでは賑わっていた人通りはまばらになり、
私たちもちょうど頼んだ紅茶を飲み終えた。

「ゼルガディスさん、今日はありがとうございました。」
「ああ。気にするな。あと、ゼル、でいい。自分の名前ながら…呼びずらいだろう。」
そう言って、彼は自嘲気味に笑った。
…確かに、難しい名前だ。と思っていた私は、お言葉に甘えてそう呼ばせてもらうことにした。

「じゃぁ、改めまして。ゼル、今日はありがとうございました。」
私は再度、ぺこりと頭を下げた。
「役に立ったなら何よりだ。明日からよろしくな。」
「うん、了解!」

片手をあげて、別れの挨拶を交わす。
最初は無口で怖そう…なんて思っていたゼルガディスさんとも、
仲良くやっていけそうなことが解ってよかった。


―――――ああ、ゼルガディスさんじゃなくて、ゼルだっけ。
もうひとつ、解ったことがある。

彼は…似ているんだ。
――――――…死んでしまった、兄に。
ふと兄の面影を重ねてしまったことは、秘密にしておこう。
私は一人でそっと、誰かさんの真似をして人差し指を立てた。



大量の袋を抱えて帰って来た自宅。
やはりそこには、ゼロスの姿は無かった。

「ま、いいか。」

私は今日買ってきた商品を広げ、着々と旅の準備を始める。
やはり剣の扱いには慣れないが…
まぁ、ゼルの言うとおりそのうち使いこなせるようになろう。
うん、そう願おう…。

買ってきた服を自分にあてがって、鏡の前に立つ。
「結構ぎりぎりだったかなぁ…。これ以上太らないようにしよう――…」
「カナさんはそんなに太ってないじゃぁないですか。」


「きっ………きゃああああっっ――――――……!!」


突然、耳元で囁かれた低い声にびっくりし、
ありったけの声で叫んだ後、私は床へへなへなと座り込んだ。

「ぜ……ゼロスぅ……」
「おや、びっくりさせちゃいました?」
「…び、びっくりも…何も……死ぬかとおもっ…た…」

おや、と面白そうに笑う彼を、私はきっ!と睨みつける。
「それ禁止!いきなり耳元禁止!」
「いやぁ、すみません。カナさんがあまりにも無防備なもので、ついいたずら心が。」

はぁ〜……ビックリし殺す気かこの人は…。
ああ。また間違えた、人じゃなくて魔族か…。


「ところで。今日はどうでした?」
「今日?ああ、いろんなもの買えたの。ほとんどゼルの見立てだけど、ね。これで明日からはばっちり。」
「そうですか。それは良かった。…では、カナさん、腕を出してもらえます?」

う…うで?
「何?…何されるの…?」
「いや、そんなに警戒されると、僕としても結構ショックなんですけど…。」
「―――…はい。どうぞ。」

恐る恐る差し出した右手に、彼によってつけられたのは…

――――――――シルバーの…ブレスレット…?

「わ、何…これ、きれい…」
ところどころについている宝石は、覗く角度によって驚くほど表情を変えた。
反射した光が、瞬く様にきらきらと輝く。
はしゃぐ私を満足そうに見たゼロスは、言う。
「新しい旅立ちのお祝い、ということで。」
「……えっ!?く…くれるの!?」
「ええ。僕だと思って大事にしてくださいね」


私はゼロスに何度もお礼を言った。
初めてだったのだ。家族以外の者からプレゼントをもらうだなんて。
――――しかも、こんなに素敵な。
…まぁ、それが魔族の彼からになるなんて思ってもいなかったけれど…。

もしかしたら、私を魔族に引き込むための、何かの作戦なのかも知れない。
そんなことわかってる。

――――でも。
私は嬉しくってたまらなかった。





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