NARUTO-ナルト- | ナノ


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「それでは試験の説明をーーーー」




二次試験合格者を集めて次の試験の予選の説明が始まる中、カノトはちらりと前の列に並ぶカカシの後ろ姿を見つめた。


遡る事、数十分前―――――。




――――――――――――
――――――――――




「――――――――」



目元を隠され言葉を飲み込むように何かに唇を塞がれ、暫くして解放されたカノトは視界が開けて横に座るカカシを凝視していた。
当のカカシは普段下ろす事のない口布に指を引っ掛けていつものように顔を覆い隠しているところで、目が合ったカカシは目元を弓なりにしてニコリと笑いかけている。


まさか。




「〜〜〜〜〜〜ッ!!!!」





色の任務を全くやったことがないわけではないが、その類の任務は殆ど未経験のカノトでも今のカカシの行動は予想がついた。




「あはー、そんな顔されるとオレ期待しちゃう(分かってるんだけど)」

「まさ、か…えっ、なっ……なん、で…!?!!」

「…寧ろ気付かなかったわーけ?」

「え…?!」




ぶわっと頬に熱が集まるカノトを見てくつくつと抑えられていない笑い声を上げながらカカシは目元を和ませる。
もう少し彼女の周りを固めていくつもりだったがもういいだろう。遅かれ早かれこうするつもりだったし、もう暫く彼女を自由にさせておくのも良かったのだが万が一何か企んでいる大蛇丸にちょっかいをかけられて彼女が傷つくのだけは避けたかった。




「…この試験終わるまで待ってて。」

「カ、カシ…?」

「流石に今は中忍試験中だからね…でも、オレからちゃんとお前に伝える。」

「…それ、って…」

「ま、オレがこんな事言うのもアレなんだけど…それまでオレの事考えててよ。」




あぁでも任務には集中しろよ、と茶化すように言えばカカシはくしゃりとカノトの頭を撫でて立ち上がると、ポケットに手を入れていつものようにニコ、と笑みを浮かべた。




「お前は一人じゃないよ」

「!」




――――――――――――
―――――――――――――――




最後の言葉にどういった意味があったのかは分からない。
しかしいくら昔からたった一人だけしか好きになった事がない程度しか恋愛経験がないカノトでもその本人でもあるカカシが言わんとしている事は理解できた。




「(ちゃんと言うって…、)」




何故このタイミングなのだ。仕事なので表面上は繕っているが正直どんな顔していいのか分からない。そもそもからかっているという線も否定できないのだ。もしそうだとしたら自分が好いているだけに質が悪いが。
ここは紅に相談すべきだろうか…?いや、あまり人に言うような内容でもないのだろうか。


意図せずしてカカシの思惑通りとなっているカノトをよそに火影の話と入れ替わった第三の試験の審判係であるハヤテが試験の説明がどんどん進んでいく。




「(…ダメダメ、今は集中しないと。)」

「―――――というわけで、体調のすぐれない方…これまでの説明で辞めたくなった方今すぐ申し出て下さい。これからすぐに予選が始まりますので…」

「…!!これからすぐだと…!!?」

「…あのーボクはやめときます。」




ハヤテの問いに苦笑を浮かべた一人の青年が静かに手を上げる。特徴的な容姿というわけではないがカノトは話した事こそないものの、里で何度か見たことある顔だった。




「(…たしか…薬師カブト、だったっけ。…?でも確か何回か前の試験でも辞退してたような…)」

「え!?カ…カブトさん」

「(…ナルトの知り合い?)」




悟られないようにカブトから目を逸らしながらも視界には入れたままカブトに注意を向ける。
流石に術を使っていない為会話まで聞こえないがどうやらナルトがカブトに辞退の理由を問い詰めているようだった。感情の動きが比較的分かり易いナルトが敵意を向けていない辺り懐いているのだろうか。
カブトはハヤテから許可が下りた為静かに列から抜けるのを自然な動作を装って見つめ、カノトは側にいた火影とアンコの会話に耳を傾ける。



「…何度か見る顔じゃな。確か前回も本選で途中棄権しとったが…いったい何を考えとるんじゃ」

「薬師カブト、データでは…6回連続不合格です。」

「どういう経歴じゃ」

「アカデミー時代からあまり目立つ生徒では無く成績も平凡…3度目にしてようやく卒業試験に合格。以後こなした任務はCランク2回、Dランク14回、とりたてて目立った戦歴はありませんね。
……ただ…」

「ただ…?」

「アカデミー以前の話なんですが…覚えておられますか。あの桔梗峠の戦いで連れ帰られた一人の少年の話…」

「(桔梗峠…)」

「覚えておる…確か戦場で生き残っていた敵の少年を………医療部隊の上忍が引き取ったという話じゃったな…ヤツがその子というわけか…」




その話ならカノトにも聞き覚えがあった。
とは言ってもいつだったか待機所で今のように上忍の誰かが話しているのを小耳に挟んだだけなので直接聞いたわけではなく、その引き取ったという医療部隊の上忍も知らない為詳しい事は分からないのだが。




「!」




カブトの姿が見えなくなってすぐ下忍の列に視線を戻したカノトは首元を抑えて耐えるように震えているサスケを捉えて目を瞠った。
すぐ側でサクラが何かを訴えている。サスケが好きな彼女の事だ、サスケにある大蛇丸の呪印を知っていて彼を止めているのだろう。
カノト自身、出来ればサスケは試験から降ろすべきだと思っているし叶うなら止めたい。しかし、里を盾に脅している大蛇丸が控えている以上下手に止められない。
何よりサスケ本人が試験から降りようとはしないだろう。侵入に気付けなかったこちらの落ち度だが里を脅かされているのは厄介だった。


痛みが酷いのか首元を抑えたまま下を向いて歯を食い縛るサスケにカノトは目を逸らしてギリッ…と奥歯を噛み締めた。




「やはりな…」

「どうします。
彼は試験から降ろし…暗部の護衛を付けて隔離すべきです。」

「そう素直に言うことを聞くタマでもないでしょあいつは…」

「!」

「……」




火影へイビキが提案した時、後ろからカカシが口を挟んだ。
カノトはちらりとカカシの姿だけ横目で確認してつい、と正面へと向き直る。




「なんせあの、うちは一族ですからぁ」

「なにバカ言ってんのよ!力ずくででもやめさせるわ!
チャクラ練り込んだだけでも呪印が反応して無理に力を引き出そうとするのよ、術者の身体を蝕む禁術なのよ!!
あの子が耐えてるだけでも不思議よ、ホントならもう死んでるわ!」

「アンコ」

「あぁカノト、アンタからも…!!」

「…ここにその呪印から生き残った前例が二人いるんだよ?」

「………」

「っ!!アンタ、本気でそれ言って…!?
火影様!!」

「ふー……
大蛇丸の言ったことも気にかかる…サスケはこのままやらせ様子を見ていく」

「ほ…火影様…!!」

「ただし呪印が開き力が少しでも暴走したら止めに入れ」

「ハイ」

「…御意」




イビキとカノトが返答する。
今出来る最善策はこれしかないのだ。


退場者もいない事からそのまま第三の試験の予選が始まり、引き続きハヤテが説明を続ける。
途中、アンコの指示によりガガ…と会場の壁が一部稼働しゆっくり降りていくとそこから対戦相手二名の名前が表示される電光掲示板が現れた。

そこに表示されたのはーーーーーー




「(…サスケと赤胴ヨロイ…か。一回戦からサスケが出るなんて)」




ハヤテの指示で前に出た二人を見つめてカノトはグッと拳を握った。























「で、」

「ん?」




サスケの試合が始まりギャラリーで観戦となったカノトは問答無用で腕を絡ませて離す様子のないカカシに困惑していた。




「ん?じゃない。なにこれ」

「だってお前目離したらすぐどこか行くし」

「子供じゃないんだから…」




ぐぐ、と力を入れて離れようとするもニコニコと笑みを浮かべたまま一ミリも動く気配のないカカシにますます困惑する。
予選前にあんな事があってただでさえ悩まされているのに何故いつも以上に絡んでくるのだ。サスケの事だってあるのに。




「どこか行くわけ?」

「別に今はないけど…」

「無いならいいだろ」

「あたしの腕は離しても問題ないでしょ!」

「…嫌?」




ニコニコと笑っていたカカシの表情がすっとどこか寂し気なものへと変わる。
ずるい、とカノトは思った。たとえその表情が自分を困らせるためのものだったとしてもそんな表情で嫌?とカカシに問われて嫌だと言えるわけがないのに。




「嫌、じゃ、ない…けど」

「けど?」

「〜〜〜〜っか、からかうの、やめて…!」





グッ、と顔を寄せて近くでオウム返しに問うてくるカカシにかぁぁっと顔を赤らめたカノトは離れる事も出来ないまま困ったように眉をハの字にしてカカシを見つめ返した。




「ど、どうしていいか分からなくなる…から」

「、……はぁ…(可愛い…)」




思いの外カノトのぽそりと返ってきた返答と赤い顔の方がカカシにはダメージだったようで、空いた片手で顔を覆って天井を仰ぐと深いため息をついてせり上がって来そうな熱を逃がした。
何度もからかってはその表情を見ている筈なのに一層愛しく思えるのは、彼女に対して自分が彼女に気があるような言動を吹っかけてわざわざ意識させているからだろうか。




「(この様じゃ恰好つかないっしょ…恰好悪オレ…)」

「カカシ?」

「あーうん……」




完敗、と一人内心呟いたカカシは名残惜しさを感じながらゆっくりとカノトの腕を解放した。




「?行かねぇの?」

「え?どこに?」

「離したでショ」

「え、別にどこにも行かないって言ったじゃない、呼ばれたわけでもないし。どこか行くと思ったから離さなかったんじゃないの?」

「…お前ほんとそーゆーとこ…」




逃げようとするくせに自分はこっちを振り回してくるよね。




――――――――
―――――――






「第一回戦勝者うちはサスケ…予選通過です!」

「やったー!!」

「…サスケの呪印を封印する。カノト、ちょっと付き合って」

「分かった」




サスケは暴走しかけた呪印を自力で抑え込んで赤胴ヨロイを圧して勝利したのと同時にカカシとカノトは柵を飛び越えて中央のサスケに歩み寄った。
座ったまま力無くふらついたサスケの後ろからカカシが膝で支える。




「ま!よくやったな」

「お疲れ様」

「…フン」




上司二人からの言葉にサスケが小さく鼻を鳴らす。先程カカシ達がいた場所で同じように一回戦を観戦していたナルトがサスケの勝利に嬉しそうにしながらもいつもの調子で悪態をついているのを聞き流した。
すると突然ヨロイへのトドメとなったリーの技をコピーした代償で身体に痛みが走ったのだろうか、サスケが身体を強張らせて歯を食いしばった。




「痛っ…」

「、サスケ」

「うちはサスケ」




痛みだけでも和らげてあげるつもりでカノトが膝をついた時、奥から数人の医療班が現れる。
数人は用意した担架でヨロイを運んでいく中、班長と思しき一人の男がこちらに声をかけてきた。




「君にも我々医療班が最善の治療をさせていただく」

「君達じゃ畑違いなのよ。コイツはオレらが預かるから」

「治療もあたしがやる」




医療班にそう告げるとカカシはサスケの側でしゃがみ込んで肩を叩くと声を潜めた。




「これから奥に連れて行って………お前の呪印を封印する」

「………………」

「…カカシ、もう次の試合始まるから行かないと」

「予選が終わるまで待ってくれ…本選に残るやつの試合が見たい」

「ダメだ!」




移動を促すカノトの言葉にハッとしたサスケがカカシに申し出るが、カカシは間髪入れずに否と答えた。
反対されると思ってもなかったのだろう、目を見開いたサスケはカノトに視線で訴えかけるもカカシと同意見のカノトも首を横に振る。




「そう熱くなるな。
これ以上放っておけば取り返しのつかん事になりかねないからな…2度もワガママはきいてやんないよ」

「あたしも同じ事思ってる。寧ろあたしはカカシはもっと早く止めるものだと思っていたくらい。」

「…行くぞ」




サスケを支えながら立ち上がらせるとカノトの手を離したサスケは無言でカカシの後ろをついて行く。
二人の後ろを歩くカノトは一度立ち止まって振り返るとサクラやナルトに1つ頷いて小さく笑みを向け踵を返して二人の後を追った。




人気のない一室に誰にも気付かれないように入り、カノトが部屋に結界を張っている間にカカシが上半身の服を脱がせて呪式の組まれた陣の中心に立たせたサスケの身体に傷つけた手のひらから流れる自分の血で呪を書いていく。カノトに施したものと同じものだ。
身体中に呪を施した後にその場に座らせ、結界を張り終えたカノトが戻ってきたのを見計らってカカシはサスケの後ろに立った。




「少しの辛抱だ、すぐ終わる」

「……」




ふと視線を滑らせたサスケとカノトの視線が交差した。
大丈夫、とひとつ頷いたカノトから目を逸らしてサスケは目を閉じる。










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