NARUTO-ナルト- | ナノ


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カノトは住宅の屋根や木々を飛んで移動し試験会場である死の森に向かいながらアンコを探していた。






「(まだそう時間は経っていない筈だけど…)」






一度立ち止まり辺りを見渡しながらカノトはぐっと両手を握り締める。


アンコに言ったところで現状は変わらないかもしれない。
そもそも自分は試験官ではないし、何より危険人物が仮に中忍試験に参加していたところで相手の顔も能力も、どこの里の者なのかも知らない。
それを訴える事が出来る証拠もない。


だが。
昔から不思議と直感はよく当たる方だった。それが嫌な直感なら猶更。
経験上、直感には何度も助けられているだけに無視出来ない。



ーーーーそれに、自分はこの嫌な直感を一度感じたことがある?





カノトは懐から巻物を取り出すと指の腹を噛み切り小さな傷を作って巻物を持ったまま印を素早く組んだ。





「ーーー口寄せの術!」




ドロン!と白い煙の中から出て来たのは大きなミミズク・風羽だった。





『お呼びですか?』

「…火影様の許へ行ってくれる?出来るだけ急いで、でも出来るだけ誰にも見つからずに」

『承知いたしました。』

「内容は…」






嫌な胸騒ぎがする為アンコを探して単独行動を取っている事。
もし先にそれに関するような報告が上がっている場合は直ちに試験を中止するのを検討してほしい事。
火影様自身は守りを念のため固めてほしい事。






それだけ伝えると風羽は小さく首肯した。






『ではいってまいります。どうかお気を付けください』

「風羽も気を付けて」





バサリと翼を広げて飛び去った風羽を見送るとカノトは再び移動を始めた。






「っ!」






遠くに見えた数人の人影と微かな血の匂いに急停止する。
駆け寄ると血の匂いは濃くなり、今回の試験の警備をしているであろうアンコの部下が何かを覗き込んでいた。




ザッ、と立ち止まると三人は身構えてカノトに振り返った。




「っ、カノトさん!?」

「何故こちらに!?」

「お疲れ。
ごめん、邪魔したかな。
ちょっと嫌な感じがしたからアンコ探してて…何かあった?」

「それが…」





三人は先程覗き込んでいた場所に肩越しに振り返ったためカノトも視線をそちらに移した。





「!?

これ、って…」

「俺達も今しがた発見したばかりで…カノトさんの言う"嫌な予感"ってのが当たったようですね…」

「第2試験官アンコさんに知らせろ!!」

「ハイ!」




すぐ傍の地蔵に血が飛び散り、その横で顔のない3体の誰かの死体が転がっている状況にカノトは息を飲む。
後輩だろうか、一人が指示を出すと後ろにいた眼鏡をかけた一人が即座にこの場を離れた。





「身元が分かる物はある?」

「こちらです」




恐らくリーダーだと思われる一人が渡してきた身分証を受け取って確認するが、身分証から草隠れの里の忍だと分かるが、少なくともカノトが知っている人物ではなかった。





「彼らの情報って何か持ってる?」

「は…?」

「何でもいい。何か特別な能力があったとか、訳あって下忍をしていただけで本当は上忍クラスとか…」

「い、いえ。試験前に受験者名簿を拝見しましたが特別何か気になる情報はありませんでした。
草隠れから推薦されて来た、普通の下忍の者です。」




カノトは顔の無い遺体をもう一度見て静かに目を閉じた。
グッと拳を握る。




「(おそらく…ううん、十中八九あたしが感じた嫌なモノは彼らじゃない…被害者ね。
とてもじゃないけど彼らにはそこまでの力はない…

じゃあ何で相手はわざわざ彼らの顔を剥がした…?
ただ殺すだけなら顔なんて剥がす必要はない…仮に狂人のような奴だったとしてもこんな綺麗に顔だけは剥がせない筈……まるでコレクションするみたいじゃない…)」




そこまで考えて、ふと思考するのを止めた。
まさか、とカノトは目を見開いて冷や汗を垂らす。




「…今の試験、受験者は?!」

「えっ?」

「カノト!!」




同僚であり友人のアンコの声にカノトは顔を上げる。





「アンコ!」

「何でアンタここにいんのよ!?」

「さっき嫌な感じがしてアンコ探してて…それより、ねぇこれ見て」




カノトがここにいる事情までは聞いていなかったのか、訝しげな顔でこちらを見ていたアンコにそう告げればカノトが3人の遺体に視線を落とす。
アンコはカノトの隣に並んで視線を落とせば目を見開いた。




「………」

「見ての通り…顔がないんです。
まるで溶かされたようにのっぺらぼうで…」

「アンコ…?」




信じられないものを見ているという風に目を見開いたまま小さく身体を震わせるアンコにカノトは心配そうに声をかけた。
何か知っているのか。




「アンコ、何か知ってるの?」

「…この草3人の証明写真を見せて!!」

「!あたしが借りてる、はい」





カノトから半ば奪い取るように証明写真を受け取り3人の写真に目を通したアンコは焦った表情で奥歯を食い縛る。
様子のおかしいアンコにやはり何かしらの異変が起きているのは理解したカノトはアンコの肩を揺さぶった。




「アンコ!!」

「っ!ごめん!

えらいことになったわ!」





思案の淵に落ちていたアンコを現実に呼び戻せばハッと顔を上げたアンコが小さくカノトに謝罪する。




「えっ!?」

「貴方達はこのことを火影様に連絡!!
死の森へ暗部の出動要請を2部隊以上取り付けて!
私はたった今からこいつらを追いかけるわ!!」

「はい!!」

「アンコ、あたしも行く」

「駄目よ!!カノトは行っちゃ駄目!!」





アンコの部下達が火影の許へ向かい、カノトもアンコについていこうとすればアンコは首を横に振った。




「緊急事態なんでしょ!?仮にも元暗部でもある!
あたしも行った方が、」

「アンタの腕は私もよく知ってる!!
でも『カノト』だから駄目なのよ!!」

「えっ?」





焦るアンコの言葉にカノトが困惑する。




「アイツはアンタにまた・・目をつけるかもしれない…!」

「"また"って…何…?あたしが知ってる人…?」

「…アンタも知ってる。覚えてるでしょ…



ーーーーーーー大蛇丸を。」




カノトはゆっくり目を見開き膝から崩れた。
頭を鈍器で殴られたような錯覚に陥り、ぐわんぐわんと何かが脳を揺さぶる感覚に軽い吐き気を覚えて口を覆う。
アンコはカノトの様子を見て小さくため息をつく。





「おろち、まる」

「…記憶はしている筈だけど火影様がアンタが思い出さないように手配していたからアンタは大蛇丸を知っていながらもわざわざ思い出すことがなかっただけ…」





フラッシュバックのように昔の記憶が再生される。




冷たい地下室。

手足の自由と視界を奪われ、意識が朦朧としている自分にひんやりとした生き物のような何かが巻きついていた。

時折噎せ返るような血の匂いが、印象的だった。

確か四代目様が亡くなってすぐの時で、あの時はーーーーー





「そ…だ…あたし…大蛇丸様に、」

「里の裏切り者に敬称なんていらない。
…私のせいだけど、そんな記憶も思い出さないで良いから」

「で、も…本当なの…?あの人が、」

「この草隠れの忍、顔がないでしょ。
こんな術使うのはアイツくらいしかいない、だからアンタは戻って!」





行こうとするアンコの腕をカノトはパシッと咄嗟に掴んだ。





「カノトッ…!!」

「…あたしだって、木ノ葉の里の忍。
里を守る為なら誰だろうが戦う。」





微かに震える身体に叱咤してカノトは真っすぐアンコを見つめ続けていると、アンコは暫くカノトと見つめ合った後深々と息をついて空いている手でガシガシと髪を掻き乱した。





「あーもー…知らないからね!!」

「アンコ…」

「ヤバくなったらアンタだけでも逃げて。
少なくとも暗部が来るまで足止めする」

「分かった」

「…無茶はしないでよ、カカシにどやされるの嫌だし」

「何でカカシが出て来るの?」

「………アンタ、何で勘が良いのにここで発揮しないの…」





アンコの言葉に首を傾げるカノトに深々と二度目のため息をついて、アンコは森に振り返った。





「行くよ、カノト」

「うん」






ザッと二人は同時に地を蹴り森へと向かった。





ーーーーーーー
ーーーーー






辺りが徐々に暗くなりだした頃、次々と木々の間を飛び回っていたアンコとカノトは一度立ち止まった。
合流してからずっと走り回っており、肩で息をする二人はここで呼吸を整える。





「いない…」

「一体どこへ…」

「……カノト、アンタはここから左へ行って。私は右を見て回る。」

「分かった」





カノトは深く深呼吸して呼吸を落ち着けるとアンコと頷き合って左の方角へと跳び去って行った。



アンコはカノトを見送ってくるりと右の方角へ向き跳躍して再び走り出す。




「(もう夕刻だわ!!早く見つけないと…!!
完全な暗闇になればこっちがますます不利になる…!!)」





アンコは思案しながら辺りの警戒を怠らずにどんどん奥へと走っていく。





「(しかし…いったい何故今頃アイツが…目的は何…!?
昔実験台にしようとしていたカノト…!?)」





ギリ…と奥歯を食い縛ってアンコは木々を間を進みながら少しずつ高いところへと跳び移っていく。





「(…まぁいいわ。この里に来たのなら今日ここでケジメをつける!
アナタはもうビンゴブックレベルSの超危険人物…

ここで私が命に代えても仕留めなきゃ…たとえそれがかなわなくとも…)」





アンコは大きな木の枝に止まるとゆっくり立ち上がった。





「(…とにかく、暗部が来るまで足止めだけでもしておく…
それがアナタからすべて教わった…アナタの部下だった…)



ーーーーー私の役目よね、大蛇丸」

「無理よ」






最後を思いを口にすると間髪入れずに返ってきた背後からの声にアンコは目を閉じて感覚を研ぎ澄ませ跳躍した。
同時に仕込み苦無を四本取り後ろへ振り返りながら大きく振りかぶる。


そこには顔が溶けたように皺だらけで左目の皮膚が捲れた顔をした、木の表面に胸から上だけをを浮き上がらせ逆さに同化していた大蛇丸の姿があった。





バシッ



大蛇丸は長い舌をうねらせて苦無を持ったアンコの腕を拘束するとその反動でアンコの手にあった苦無がその手から離れる。


アンコは空で体勢を立て直し近くの木に止まるとそのまま大蛇丸の舌を捕まえた。





「(逃がさない…"潜影蛇手"!!)」




グッ、と逃がさないとばかりに引っ張りながら心のうちで唱えると召喚された2匹の蛇がシュルシュルと大蛇丸の舌に巻き付きガブリと噛みつく。
そのまま力任せに引っ張れば大蛇丸の身体が木の内から引きずり出されるとアンコは背負い投げて反対側の木に大蛇丸を叩きつけた。



大蛇丸とぶつかった衝撃でその部分がバキッと悲鳴を上げる。


が、特に大きなダメージは受けていないとばかりに笑った大蛇丸は長く伸ばした舌をシュルルと縮ませ、その反動でアンコに突進した。




ドカッ!!




「!!っぐ!!!…くっ」





大蛇丸と木に挟まれて呼吸を一瞬詰まらせながらも大蛇丸の手を掴み逆の手でまた苦無を一本構えたアンコは身体をねじって大蛇丸を木に押さえつけ、自分の手ごと大蛇丸の手を苦無で突き刺した。




ザクッ!!




気を抜けない厄介な相手であるだけに普段以上に気力を使ってしまうのだろう、アンコは呼吸を乱しながら小さく笑うと苦無を持っていた手と大蛇丸の空いた手を交差させた。





「へっ!つかまえた」

「!!」

「大蛇丸、アンタの左手借りるわよ」




アンコは大蛇丸の左手を利用して器用に印を組み始めると、大蛇丸はその印を見て目を瞠る。





「(そ…その印は…!)」

「そう…アナタも私もここで死ぬのよ。
(忍法・双蛇相殺の…)」

「フフ…自殺するつもり?」

「!!」

「影分身よ…」





術が完成されようとしたその時、背後から聞こえた目の前の人物の声にアンコはハッと振り返ると隣の木に背を預けた大蛇丸が余裕の表情でアンコを見下ろしていた。


術が解けボンッと目の前にいた大蛇丸が煙となる。





「!!」

「仮にもお前は里の特別上忍なんだからね…私の教えた禁術ばかり使っちゃ駄目だろ」





大蛇丸は左手で刀印を組みながら右手で自らの顔を鷲掴んだ。



ズキンッ、と左の首筋に強烈な痛みが走りアンコは膝をついて首を抑える。





「ぐっ…い…今更…何しに来た…!!」

「久しぶりの再会だというのに…えらく冷たいのね…アンコ」

「フン…ま…まさか火影様を暗殺でもしに来たっての?
それともカノトが目的…?」

「いーやいや!あぁでも、カノトは優秀ね…
あの子にも会っておこうかしら…

まだ部下が足りなくて…この里の優秀そうなのにツバつけとこうと思ってね…」

「ぐっ…うっ…」

「さっきそれと同じ呪印をプレゼントして来たところなのよ…」

「くっ…」

「アンコ!!」

「!!」





ザッ、とアンコの近くに降り立ったのは反対側を捜索していた筈のカノトと蘭牙だった。
アンコは目を見開いて自分の前に立つ彼女の背を見つめる。





「っバカ!!何で来たの…!!」

「ごめん、アンコはきっと一人で片づけるだろうと思って蘭牙をつけさせてたの。
…あたしが思ったより離れてしまったから追い付くのに時間がかかってしまったけど」





カノトはせり上がる恐怖を気力で押し殺し、愉しげに笑っている大蛇丸をキッと睨んだ。





「アナタも久しぶりね、カノト…元気だった?」

「…お久しぶりです、見ての通りピンピンしています。」

「アナタはアンコと大違いね…アンコは冷たいわ」

「貴方の行動を考えれば仕方ありませんよ…木ノ葉へは何をしにいらしたんですか?」

「さっきアンコにも言ったけど、部下が足りないから優秀そうな子にツバつけにきたのよ…」

「!!」





その言葉にハッとカノトが反応すると同時に大蛇丸の長く伸びた首がカノトのすぐ傍まで迫っていた。





「っ!!」

「カノト!!」

『お嬢!!』





ガッ!!


大蛇丸の頭がカノトの首を捉えようとした瞬間に蘭牙が伸びた首に飛びつき牙を立て、同時に反射的に身体を逸らせ素早く抜いた苦無を振り払った。
仰け反るようにそれを回避した大蛇丸はするすると首を元の位置に縮めていくのを見て蘭牙も牙を離す。





「昔より随分成長したじゃない…カノト」

「貴方が里を抜けて何年経ったとお思いですか…成長もしますよ…」

「そうね…ビンゴブックに載ってるくらいですものね…」

「!」

「そうそう…今回ここに来たのは、里にほしい子がいてね…」





思い出したかのように大蛇丸は彼女達に説明し始める。






「くっ…勝手ね…まず死ぬわよその子…」

「!アンコと同じ呪印を…!」

「そう…生き残るのは10に1つの確率だけど…お前と同じで…死なない方かもしれないしね」

「!」

「…えらく…気に入っているのね…その子………」

「嫉妬してるの?ねぇ…!?
お前を使い捨てにした事、まだ根に持ってるんだ…アハ」

「っ」

「違います」






大蛇丸の言葉にアンコが目を見開いた瞬間、カノトがはっきりと否定する。





「アンコは貴方に使い捨てにされたんじゃない。アンコが貴方を見限っただけ。」

「アハハ…別に勝手に言っていて構わないわ…真実の解釈は人それぞれですものね…」

「カノト…」

「お前と違って優秀そうな子でね…なんせうちは一族の血を引く少年だから…」

「!!」






カノトはこれ以上無い程目を見開き、グッと拳を握り締めるとピリッと纏う空気が一瞬にして変わった。
オッドアイが苛烈とも言える緋色に変わり、射殺さんばかりにどこか愉しげに見つめる大蛇丸を睨みつける。





「容姿も美しいし…私の世継ぎになれる器ね…」

「まさかサスケに……!!」

「あら…知り合いだったの…?」





ニタリ、と笑った矢先に今度は突然伸ばしてきた舌に反応して苦無を振る。
ザッと刃先で切れた舌からはパタパタと出血したが、大蛇丸の舌は構う事なくカノトの右腕に巻き付く。




「くっ、」

『お嬢!!』

「カノト!!」




すぐ様苦無を左手に持ち替えたカノトは舌を切り落とすべく苦無を振りかざした。





「……そういう事ね」

「なっ!?」





力任せに振り下ろした苦無は大蛇丸の舌を切り落とす事なく空を切った。
舌を引っ込ませながら何か納得したように大蛇丸はまた笑みを浮かべている。





「…あの子が生きていたとしたら…面白いことになる。
くれぐれもこの試験、中断させないでね……

さて…ウチの里も3人程お世話になってる…楽しませてもらうよ…」





大蛇丸がゆっくりと立ち上がったのを見てカノトと蘭牙が身構える。





「もし私の愉しみを奪うような事があれば…木ノ葉の里は終わりだと思いなさい…」

「大蛇丸…!!」





ボンッ、と煙と共に大蛇丸は忽然と姿を消した。
歯を食いしばり悔し気に肩を震わせたカノトは苦無をホルスターに戻してアンコへ振り返って苦しげに呻く彼女の様子を見る。






「呪印が浮き出てる…まだ暫く痛みは引かなさそうね」

「はっ…く…」

「…行こう。大蛇丸に試験を止めたら木ノ葉の終わりって言われた以上下手に今動けない…
どのみちここにいても森の生き物に襲われかねない…」






アンコの腕を自分の首に回して彼女を支えたカノトはアンコに負担がかからないようゆっくり立ち上がって蘭牙に目配せした。






「周囲を警戒していて」

『あぁ』






感情の高ぶりが少しずつ落ち着きを取り戻したからだろう、ゆっくりと元のオッドアイに戻ったカノトはアンコを支えながら歩き出す。




スゥ…




衣服からギリギリ隠れた箇所、薄らと一瞬だけ浮かび上がっては消えた黒い紋様にカノト自身気付く事はなかった。








to be continued…
→懺悔室

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