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学校から帰ったリクオを迎えると珍しく元気が無かった。
縁側に座ったリクオの隣に座り、猫の姿の紅葉はどうしたものかと首を傾げた。
『若?』
「…ん?」
『学校で何かあったか?』
「……紅葉は悪い奴なの?」
『は?』
思いつめたような表情が何処か痛々しく、それと無く聞いてみるとリクオは少し躊躇ったように口を開閉させてやがて紅葉を撫でながら言葉を紡いだ。
「…学校で皆が妖怪は悪い奴とか、妖怪は昔の人が作った創作で現代にはいないんだ、って言われて…」
『あー、成る程ね。そういう事か。』
「…ボク嘘ついたりしてないのに、皆信じなてくれなくて…」
『若のジジイは何?』
「…?妖怪…」
『あたしは?』
「…妖怪…」
『首無、青、黒、氷麗は?』
「妖怪でしょ…?」
どうしてそんな事聞くの?とリクオは紅葉を抱き上げた。
『妖怪は居るでしょう?』
「…うん。」
『これはね、あたしの考えだから他の奴らは知らないけど…あたしは若があたしらの事を知っているだけで十分なんだよ。』
「紅葉…?」
『あたしら妖怪は人間にとって空想の生き物だよ。だからホントの恐怖を味合わなきゃ信じたりしないさ。
そんな事してまで人間にあたしらを知ってもらうより、若や若菜…若のお母さんが知ってくれているだけでいいってあたしは思う。』
「どうして?」
持ち疲れたのか紅葉を膝に下ろして黒い毛並を撫でながらリクオは問い掛けた。
『んー…どうしてだろうねぇ。
…あたしが、人間好きだからかもね。』
「紅葉は人間が好きなの?」
『妖怪達も好きだよ。でも人間好きになったのは初代の嫁を気に入ったから、かな。』
「おばあちゃん?」
『うん。初代には内緒ね。
初代はあの子を口説き落としたと思ってるんだろうけど、あの子はちょっと変わってたからね…ほら、さっき若の友人は妖怪を悪く言うって話したでしょ?
あの時代には妖怪は既に恐れられる存在だったけど、あの子ったら妖怪の、それも百鬼夜行の主と夫婦になって子まで成したのよ?驚いたのなんの。』
クスクスと笑って紅葉は懐かしそうに目を細めた。
『あたしはやった事無いけど…人間を脅かしてる妖怪なんて器が小さいのよ。どうせなら自分より強い者を脅かす程の器になりなさいって思うわ。』
「紅葉、人間に悪戯しないの?」
リクオは驚いたように紅葉を見下ろすと、紅葉は心外だと言わんばかりにリクオを見返した。
『どうしてあたしが人間を脅かさなきゃいけないのよー?』
「え…だって皆やってるから…」
『…だから人間に悪い印象持たれちゃうのよ。』
はぁ…と溜息をついて(いるようにリクオは見えた。猫が溜息もおかしい気がするが)紅葉はリクオを見据えた。
『良い?妖怪だから悪さするのが当たり前というわけでは無いの。人間だから良いことするのが当たり前っていうのはおかしいでしょ。
若は初代に憧れているようだけど、奴良を継ごうが継がまいが初代みたく無銭飲食するような輩になっちゃ駄目よ。あと、若菜と好きな女の子を悲しませるような輩にもなっては駄目。
好きな子の前ではカッコ良くありなさいな。』
「…うん!」
少しは元気出してくれただろうかと紅葉がほっ、としていると「紅葉は、」と頭上から声をかけられた。
『うん?』
「…ボクが三代目を継ぎたく無いって言ったら怒る?」
『………怒らないわ。若の好きなようにしたら良いよ。』
「ホント?」
『あたしが若に嘘ついた事ある?』
「ううん、無い!
ねぇ、紅葉はボクの事好き?」
『…えぇ、好きよ。
言ったでしょ?あたしは妖怪も人間もわりと好き。
若は四分の三も人間の血が流れていて、四分の一も妖怪の血が通ってるんですもの。
あたしの大事な教え子だしね。』
ぱぁぁ、と表情を輝かせたリクオに"可愛いな"と温かい気持ちになっていると首無が通りかかった。
「リクオ様、紅葉様、総大将が呼んでますよ。」
『あぁ、そういえば親分衆の寄合だったわね。』
恐らく、若の三代目襲名だろうけど。
脳裏の言葉は呑み込んで、紅葉はリクオに抱っこされぬらりひょんの部屋へと向かった。
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