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ひらひらと何かが部屋に入ってきた。
庭に桜の木があるからその花弁が風に乗ってきたのだろうと思われた。




「もうこんな季節かぁ…」






夜桜












「……‥」

「太裳?」



晴明の部屋に向かう途中だった太裳は過ぎた部屋から顔を出す昌浩に声をかけられて立ち止まった。




「何か御用でしょうか?」

「あ、ううん。
何か嬉しそうだから声かけてみただけ。」

「…そうですか。
では、私は晴明様に呼ばれているので失礼しますね。」

「うん、じゃあね。」




微笑んだかと思えば、太裳は昌浩に一礼して目的地へと向かった。



「何か良い事あったのかな…?
もっくん、何か知ってる?」

「さぁな」



部屋の中で会話を聞いていた物の怪は小さく欠伸をして夢の舟を漕いでいった。





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「晴明様。」

「おぉ、来たか太裳」

「はい。」



晴明の部屋についた太裳は一言言って入室した。





「朱雀から大まかに聞いたと思うが、ちと南へ行ってくれぬか?」

「姫の許ですよね?」

「あぁそうじゃ。
一人はまだ心細いじゃろうしな。
着物などを持って行くついでに暫く居てやってくれぬか?」




太裳は「御意に」と言って嬉しそうに部屋を出て行った。
それを見ていた晴明は目許を和ませる。




「あれの事になると分かりやすいのぅ…」



「姫」というのは半年程前に南の方角の都外れにある古い邸に住む二十ばかりなる紅月という晴明の孫娘だった。
絶える事の無い幾多の求婚にうんざりし、紅月は伊勢に向かったという噂を自ら流して南にある無人の邸を借りて今は一人暮らししている。
姿を現す事が出来ない以上、買い物などは不便なので、晴明は定期的に天一や天后を中心に食材や着物などを送って出来るだけ危険な事を含め不自由の無いようにしていた。




「楽しそうだな」

「勾陣か」



晴明の傍らに闘将紅一点の勾陣が顕現した。



「太裳が紅月の許に行くのは久方か?」

「そうだのぅ。
最近は天后がついておった。」





晴明は手許で扇をいじり始めた。





「紅月は基本的に誰とも仲良くしているが…太裳といるのが一番嬉しそうじゃな。」

「さすが恋仲というところか」

「まぁ太裳が居るからこそ、何度も来るしつこい求婚を全て断っていたしの」

「追い返すのに騰蛇を使った事もあったな」









「へーっくしゅんっ!」

「もっくん、物の怪なのに風邪?」

「物の怪言うな!!
これは誰かが噂してるな…」





晴明と勾陣の間でそんな会話が始まっていた事を知る人物は控えている天一と朱雀しか知らない。






「では行って参りますね」

「あぁ、紅月に宜しくな」

「はい。」



夕方、着物等の荷物を持った太裳は庭で見送りしている晴明と勾陣に別れを告げ、白虎の風に乗って安倍邸を後にした。



「いつ頃帰って来るんだ?」

「さてなぁ…暫く帰る様子は無いのは確かだがの。」

「?」

「さっき白虎にな、」




─食材を定期的に送って下さい




「と言っておったのでな。
儂が呼ばない限りは紅月の邸から動かないだろうよ。」

「昔の太裳は異界かお前の傍に居たのにな。」



そう言った勾陣に晴明は笑いながら「これでいいんじゃよ」と言って部屋に戻って行った。






「予定より遅くなってしまいましたね…」



暗くなった頃、邸の前に降り立った太裳は門を潜って邸の玄関に歩いて行った。



「失礼します」



誰もいない入口で一言言って邸内に入ると荷物を近くの部屋に置いて気を探った。



「…庭?」



庭の方角に人の気配を感じた太裳はその方角に向かって暗い邸の中を歩き出した。




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庭に顔を出した太裳は唖然とした。



「……、…‥」



ひらひらと舞う桜。
結界内に美しく響く琴の音。
そこには。



「姫さ…ま?」



彼の愛す姫が琴を奏でていた。
紅月は太裳の声にハッと琴から顔を上げ、太裳の姿を捉えると嬉しそうに微笑した。



「太裳!!」

「お久しゅう御座います、姫。
お変わりはありませんか?」

「元気だよ!…きゃっ!」



お互い歩み寄ると太裳が紅月を抱きしめた。






「…貴女にお逢いしとう御座いました。」

「ふふっ。
私も逢いたかった。」



微笑みながら顔を見合わすと、どちらからとも無く口付けを交わす。



「…ん。
太裳、いつまで居られる?」

「晴明様に呼ばれるまで姫の傍に居る予定ですよ。」

「じゃあ御爺様に「太裳は呼ばないで」って言わなきゃ」

「ずっと私で宜しいんですか?」

「嫌?」

「滅相も無い…寧ろ喜ばしい限りです。」



口付けをした後で照れたのか、紅月は赤くなった顔を隠しながら話を持ち出した。



「あ!!
見て!桜綺麗でしょ?
最近仲良くなった雑鬼に頼んで照らして貰ってるんだ!!」

「なる程…それで桜が光ってるように見えるのですね。」



輝いた瞳で話す紅月に微笑みながら太裳は後の反応が容易く予想出来る紅月の耳元で何の躊躇いもなく呟く。







─桜の御許に居た貴女には遠く及びませんが…ね。




夜桜

(なっ…馬鹿っ…)
(?)
(…恥ずかしい事をサラって言ってこのほけほけ笑う彼に私は惚れたんだった…)




ーーーーーーーーーーーー
懺悔室→



遅くなりましたぁぁぁぁぁあっ(スライディング土下座←)


太裳の甘ってこんな感じなんでしょうかね?(;´Å`)
なり茶はやった事あるんですが夢読んだ事が無いので…←←



いろいろと違う箇所(年齢とか)があるかもしれませんが大目に見てやってください(;´`)




リクありがとう御座いました!





2010.03.24.

2010.06.05.移動

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