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『ーー紅月か?やっと繋がった。』







薄暗い部屋の中、重い腕を上げて赤く点滅しているスマホを耳に当てると聴こえてきたのは付き合いの長い先上司の声だった。







「………お疲れ様です。すみません、ツォンさん」

『お前が数日も無断欠勤なんてどうした?
家にも帰っていないようだな…どこにいるんだお前。

ルードとイリーナも心配しているし社長も気にかけていらっしゃる。レノも休憩時間を割いて探し回っているようだぞ』

「……………レノ、が?」







同僚や後輩の名前、主とも言える社長の後に出てきたのは燃えるような赤髪をした愛する恋人の名前だった。








『あぁ。仕事には来ているが休憩に入るとすぐ社外に出て行くようだ。
今の時期は残業も特に無いから定時で上がっているし』

「…そう、ですか」

『少し声も掠れているな…体調でも悪いのか?病院なら何処の…』







普段クールなだけに電話越しでもわかる程心配そうな上司の声に紅月はそっと小さく笑う。







「ーーツォン、さん」

『あぁ、何だ?何かいるか?』

「すみません、時間が無いので手短に言いますね」

『紅月?』

「ーー私、タークスに戻れないかもしれません」







肩と耳でスマホを挟み重い両手を空けると窓から見える夕日を見つめながら紅月は手繰り寄せたシーツを頭から被った。



ちゃり…と鳴る金属音には気付かない振りをする。







『は?』

「あぁ心配しないで下さい。一応元気にやってますが…えーと、急遽地元に帰らないといけなくなりまして」

『お前はミッドガルで生まれ育ったと俺は記憶しているが』

「ばーちゃん家に行かなきゃいけなくなりました。アイシクルのずっと北」

『そんな所に人が住んでいるとは聞いた事ないが』

「聞いた事ないだけでそこにばーちゃんがいるんですよ」

『いきなりどうした?…何かあったのか?』







上司は聡い。
自分が通話を切ろうとしている事も、嘘をついている事もきっと気付いている。



彼が知らないのは自分のスマホの赤ランプだけだろう。







「3人には心配しないで欲しいと伝えて下さい。
くれぐれも私を探さないで下さい。

私なら大丈夫です、でも急遽辞める事になってすみません。」

『おい、紅月ーーー』







ブツッ、と通話が切れ手からスマホが抜き取られた。




辛うじてまだ点滅している赤ランプに視線を滑らせて、そのままスマホを奪い取った部屋の主を見上げて微笑む。







「…おかえり」

「ただいまだぞ、と。」







ガンッ、カラカラ…と何かが床に落ちて滑って行く。
恐らく取り上げたスマホを放り投げたのだろう。





ぐっと両肩に重みがのし掛かり後ろから抱き締められた紅月は肩越しに振り返りシーツの端から赤を覗き込んだ。







「ツォンさん、心配してたよ。休憩時間くらい休憩したら?」

「休憩ならしてるぞ、と」

「急いで帰って来て私を抱いて戻るまでに休憩してる時間は何処にあるの?レノ」







視線が絡み合うとレノは何処か気まずそうに視線を泳がせる。







「助けでも呼ぶつもりだったなら無駄だぞ、と」

「呼ばないよ。
無断欠勤してるしこのまま退職する話だけしようと思って」

「退職?」

「うん」







羽織っていたシーツから頭だけ出し、紅月はレノに凭れかかった。

シーツの端から腕を覗かせる。







「流石に私でも、壊せない」







手首に繋がれた枷から伸びる鎖が夕日に照らされ鈍色に光る。







「…壊せないんじゃなくて、壊さないの間違いだろ?と」

「それもあるけど違うんだぞ、と」

「真似すんな」

「ふふ」







レノはジャケットから小さな鍵を取り出して紅月の手足に繋がれた枷を慣れた手つきで取り外す。



赤く擦れた手首を酷く優しい手つきで撫でるレノがおかしくて小さく笑った紅月にレノは胡乱げな視線を投げかけた。







「そういや退職する話なんて聞いてねぇぞ、と」

「1ヶ月近く無断で休んでるんだし、そのうちツォンさん達が捜索し始めるでしょ。

レノは私を探しているって思ってるみたいだけどそのうち疑いが向けられると思うから」







レノに抱き締められたままベッドに倒れ込みもぞもぞとレノに向き直る。







「電話なんかしたら此処だって言っているようなもんだぞ、と」

「ハッキングされないようにしてあるから大丈夫。
少ない充電でやったからもう電源切れるだろうね」

「………良いのか?」







問い掛けながらも起き上がって馬乗りになってきたレノに紅月は苦笑を溢す。







「大好きなタークスを辞めた事に対して?
助けを呼ばなかった事に対して?」

「……」

「どっちも、って言いたげな顔だね」







見上げたレノの頬に軽くなった両手を伸ばすとシーツが滑り落ちて一糸纏わぬ姿が顕となった。

入浴してもすぐ脱がされるのだ、服などいつから着る事を辞めたのか。




それでも構わず紅月は真っ直ぐレノを見つめて微笑む。







「レノは寂しがり屋だからねぇ……

貴方が不安ならタークスだって辞めるし、レノが養ってくれるならこの状況でも甘んじて受けるよ。」

「…オレは寂しがり屋じゃねえぞ、と」

「でも、いつバレるか分からないから辞めて欲しかったんでしょ?」

「それも星の声とやらから聞いたのか?」

「……レノは心配性だねぇ。」

「否定、しねぇのか」

「レノに嘘はつかないって決めてるから」







自分以外に唯一生き残りだった生き別れの妹は以前星に還ったと知った。


産まれてすぐ自分は養子に出されたが、彼女が妹だという事も本当の両親が死んだ事も全て星の声が教えてくれていたから分かる。







「古代種はもういない。」

「紅月、」

「こっそり接触してきた宝条だってもういない、セフィロスももういない。
貴方以外、私の真実は知らない」

「…………」

「貴方の目の前にいるのはただの紅月、レノの為だけに生きる事を誓った紅月…そうでしょ?」

「そう、だな」







紅月の言葉に何処か安心したようにホッとしたレノは紅月の首元に顔を埋めた。



だからずっと星の声を聞いている紅月の冷めた表情なんて知る由もない。






「キケン」
「キケン」
「ココジャナイ」
「イコウ、紅月」







「…古代種の紅月なんて、存在しないわ」







危険信号
(そもそもレノと任務の時に宝条が来なければ)
(レノが私を古代種だと知る事も無かった)
(エアリスが死んでから)
(私を失う事を恐れて)
(監禁する程壊れる事だって無かった)
(だから私は“古代種の私”を壊す)
(そうすればほら、)
(レノは安心して笑ってくれるから)







ーーーーーー
懺悔室。

レノ夢書きたいけど
長編増やすのもなぁと思って
短編で我慢してみたけど
何が書きたいのか分からなくなった爆

ちょっとよくワカラナイ(´_ゝ`)


長編(か中編)書きてぇな…



2020.04.25.月猫

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