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火影様が主催の飲み会が初めてだった。




ずっと視線を感じて振り返ればずっと憧れだった暗部の時の先輩と目が合った。





任務で一度だけ一緒だったけどコードネームだったし何より私が一方的に知ってるだけで、先輩が名前も知らない私を見てる訳無いか…と思い小さくため息をついて視線を逸らす。






パシッ…







「待って」

「ぇっ」

「一緒に抜けよ」

「わっ、ちょっ…」








カカシ先輩が私の手を掴んで素早く印を組み、先輩と私はその場から離脱した。












「こ、ここは…」

「アカデミーの近く。
急に連れだしてごめーんね?」

「い、いえ。
あの…何故私を?」

「ずっと見てたから」







二人で歩きながら会場から離れる。


カカシの言葉に紅月はピタリと足を止めた。








「さっき目が合ったでしょ?」

「え、あ…」

「気のせいだと思ったのかすぐ逸らされちゃったけど」

「っ!!」

「チャンスかなーと思って連れ出したわーけ。」








かあぁぁ、と赤くなった紅月にカカシはぶはっと笑い出した。






憧れだった先輩が好きになったのはこの時だったかもしれない。



人を好きになった事がない私は『あぁ、カカシ先輩に会う為に産まれたのかも』なんて柄にも無い事を思って。






それから付き合い出して。






気付けば2年が過ぎていた。













「………」

「ちょっと、紅月?」

「紅、さん…」

「どうしたのよ?暗い顔して」








2年も経てば、彼に追いつきたい一心で中忍だった私は暗部を抜けて上忍になった。




彼を知る為に。

彼に追いつく為に。






だけど。






上忍待機室で一人膝を抱えていると、紅月を見て破顔した紅が紅月の隣に座る。







「…カカシと何かあった?」

「っ、」







ぴくり、と跳ねた身体に紅は小さくため息をつく。







「…やっぱり」

「っ…何か、あったわけじゃないんです…」

「え?」

「カカシ先輩が、分からないんです………!」

「紅月……」








膝を抱えていた手がぎり…と握り締められる。







「ずっと憧れで……先輩に告白された時、私は憧れが恋になったと思いました。


でも…一緒にいればいる程、知ろうとすればする程、カカシ先輩が分からないんです……っ」

「…」

「…分からなくて、質問してもはっきり答えてくれません。
私よりも上忍は長いし、火影様に密命が下される事もあるかもしれない。

でも、何も教えてくれない…!」








紅は黙って聞いたまま、紅月を撫でた。







「怖くて、耐え切れなくて。

さよなら、って言ったんです」

「!」

「でも…そんな事言わせないって言われて」













カカシは膝をついて紅月を抱き締めていた。







「そんな事言わせない。」







紅月は顔を歪めた。







「…嘘、です。
ずっと傍にいて下さい…」

「離すわけないでしょ」

「…先輩、私の事愛してますか…?」







カカシは立ち上がって紅月を抱き締めた。







「当たり前でしょ、愛してる。」

「…信じてもいいんですよね?」

「紅月、好きだよ」







抱き締められたまま、紅月は小さく呟いた。







「…寂しい、」

「……今任務が立て込んでて忙しいんだ。
ごめーんね?」

「後で、連絡下さい。式でも鴉でも。」

「必ずするから。」

「お願いします…」

「また今夜来るから…絶対」

「っはい…」

「会いたい、紅月…いつでもね」








そう言ってお互い惹かれるようにしたキスは、何の味か分からなかった。






ーーーーー
ーーーー







「貼り付けたような…嘘の会話を、繰り返しているだけなんです。

先輩に言えるようになりたい…でも、捨てられるかもしれないと思うと怖いんです…っ」

「紅月…」

「別れたいのに…別れるには先輩を好きになり過ぎて、別れられないんです………」







紅は伏目がちに悲しそうな表情で、紅月をくしゃくしゃと撫でた。











ーーーーーー
ーーーーーーー









「…よう」

「アスマ」







いつもの愛読書を片手に上忍待機室にいたカカシは同期のアスマに視線を投げた。




カカシが愛読書に視線を戻し、目の前でドカッと座ったアスマは懐から煙草を一本抜き、火をつける。





ふぅー…と煙を吐いたアスマは、天井へと登る煙を見つめたまま口を開いた。








「お前、彼女とはどうしてるよ?」

「……彼女って?」

「お前複数いるとか言うんじゃねぇだろうな……」

「……いないよ、紅月以外」

「いたら紅に殺されるぞ」

「そうか、紅の従姉妹だっけ」

「しかもかなり可愛がってるからな」







そうだったな、と思いながら最後に会った紅月を思い浮かべる。




最後にあったのはーーーー……








「…別に、普通だよ。
仲良いし、好きだし。」

「なら、最後に会ったのはいつだ?」








今考えていた痛い所を突かれ、カカシは愛読書を少しずらしてアスマを睨んだ。








「…何でアスマに言わなきゃいけないわーけ?」

「確かに、俺には関係ねぇな。



なら、今紅月がどこにいるか知ってるか?」

「どこにって…家か任務じゃないの。」








アスマの意図が分からず、訝しげに眉を寄せたカカシにアスマはため息をついた。








「自分の彼女だろ。
しっかり見とけよ。」

「何なのさ、さっきから」

「オレも紅から聞いたんだ。


お前の彼女………」








アスマは一瞬躊躇って、はっきりと続けた。







「4日前…任務失敗して、ボロボロになって戻ってきた。」

「は…!?」

「…お前に言うべきなのかと思うが…

何度も殴られて、服がズタズタに裂かれていて、殆ど衣服の意味が無い状態で救援に来た…ヤマトだっけか?お前の後輩が発見したんだとよ。
…発見が早かったから未遂で終わっているそうだが、何があったかは想像出来るな?

…その時点ではもう意識が無くて、用意出来た布で包んで、同じ救援の紅に紅月を任せてヤマトが任務を終わらせた。



傷も酷いし、何より精神的ショックなのか…ずっと目覚めないそうだ。」

「は、何…で」








隠せない明らかな動揺をするカカシを横目にアスマは煙草をふかす。







「…目覚めねぇけど、ずっと泣いてるってよ」

「………………」







状況を整理しているのか、黙ったままのカカシにアスマは目を細めた。






状況がついていけなくて思考が止まっているのか。





冷静に整理できる程、もう冷めているのか。 







その時、バンッと待機室の扉が開いた。







「紅、」







アスマの呼びかけに答えず、ツカツカとカカシの前に歩いてきた紅はスッと右手を振り上げた。





パシッ







「やめろ、紅」

「離してアスマ」

「紅月の状況は今話した」







アスマの言葉に紅は表情を歪ませた。







「だったら、何で駆けつけないのよ!!」

「紅」

「アンタの彼女でしょ!?」

「紅、落ち着け」

「ーーーー…オレが行って、どうする?」

「「!」」








冷え切った言葉に、二人は内心動揺する。








「仮にオレが行って、紅月が目覚めるわーけ?」

「カカシ、アンタいい加減にしなさいよ…!」

「オレはいつでも冷静よ。もう少ししたら任務だしね。」

「っ……」








アスマの手を振り払い、紅はカカシを睨んだ。







「…紅月と別れなさい。今すぐ」

「紅、落ち着けって」

「私は冷静よ、アスマ。

カカシ。紅月と別れて、金輪際あの子に近づかないで」

「何で紅に言われて、別れないといけないの?」







カカシの右目と紅の視線が絡んだ。








「あの子の事好きじゃないなら別れてって言ってるのよ」

「好きなら別れなくていいんだ」

「愛してないんでしょ!?」







ドンッ!!







紅の言葉にカカシは握った右手で横壁を殴った。



ミシッ…と嫌な音を立てて、蜘蛛の巣のように割れた場所からカカシの怒りが見え隠れする。






「………紅月が望むなら何千回でも、何万回でも、欲しい言葉をあげる。

抱き締めるのも、キスも、その先も望むならなんだって。


でも…何処でか知らないけど、信用を失くしたオレの言葉では紅月と会話になるわけがない」

「…………」

「今どこ、とか。誰といる、とか。
式や鴉で飛ばしたって信じられるわけないでしょ。
見えないからね。」

「なら…尚更、あの子が別れるって話した時に」

「紅」







立ち上がったカカシは待機室の扉の前で立ち止まり紅の言葉を遮った。







「何度も、“もう無理”って言われたさ。


それでも、紅月の心にオレがいるんでしょ?」

「っ、」

「無理じゃないって何度も返したよ。

信用されてなくても、あの子の中にオレがいて、オレにも紅月しかいないから。

だから傷つけても…オレは絶対別れない。



オレだって、戻れるなら始めに戻りたいけど、狂った歯車は…戻せないでしょーよ」







待機室から出て行ったカカシは最後まで二人を振り返らなかった。







ストン、と座り込んだ紅はカカシが出て行った扉を見つめながらぽつりと呟いた。







「何で、あの子もアンタも、お互いを傷付ける事しか出来ないのよ…」





ーーーーーーー
ーーーーー






人気の無い深夜の病院に月明かりが1つの影が差した。






微かに感じるチャクラの気配から、その影は2階にある1つの窓の横で立ち止まる。







口寄せの術で室内に忍犬を召喚したその人物は忍犬に中から鍵を開けてもらい、呆れた風情の忍犬はドロンと姿を消した。







「ーーーー紅月…」








酸素マスクに、いろんな点滴やチューブに繋がっている紅月は目覚める様子もなく、ただひたすら涙を零していた。
その姿は記憶よりも痩せ細っている。








「いっつも、オレが見舞いに来られる側なのにね」








来客用の椅子には手をつけず、ベッドの縁に座ったカカシは掠れるような声で返事のない彼女に語りかける。






数日経ってもサラサラと手触りの良い髪を撫で、カカシは暫く黙っていた。







「…どうすれば、良かった?」







髪を撫でていた手は、布団に隠されていた紅月の右手を弱く握る。








「忍を辞めさせて、外に出られないようオレの家に一生繋いでいれば、お前は安心した?」







そんなわけがない、と分かっていても。








「どうしたら、お前を安心させる信用を、信頼を得られた?」







否。自分が悪いのは分かっているのに。







「どうすれば、お前を幸せに出来る?」







彼女には何でも話すよう言っているのに、自分は何も言わないのだから。







「それでも、」






目覚めれば、また苦しませると分かっていても。







口布を降ろし紅月の右手の甲にキスをして、カカシは目を閉じた。







「頼むから、目を覚ませ、紅月…っ」







許して欲しいなんて言わない。







何と言おうと何度だって、お前を愛す。







「帰ってきてくれ……」







Believe



(オレはどこで間違えたの)
(泣き続けるお前に届く筈もないけど、)
(お前が好きで、お前を手放せないオレでごめんね)











Song:SAYONARAベイベー

ーーーー裏話&懺悔室ーーーー

短編は久し振り
月猫です_(:3」∠)_



今回も臨也夢に続いて
曲を元に書きました。

続編は無いので
ハッピーエンドかバッドエンドか
皆様にお任せします( ̄∀ ̄;)
(ちなみに月猫はやはりハッピーエンド派)

まぁただ今回は悲恋ですね。
ハッピーエンドになって欲しいのに
悲しいのばっかりな私( ´_ゝ`)




ちょっと重たかったかなぁ…と思いつつ。


歌詞では
「もう戻れやしないね」とありますが
カカシはそれでも
ヒロインとの関係を絶ちたくない、
という感じにしてます。


裏話ですが
アスマと紅は二人が傷つけ合ってるのを知っています。
アスマは“好きなら目を離すんじゃねぇ!支えやがれ!”って思ってますし、
紅は“傷つけ合ってるならお互いが壊れる前に別れなさい!”って思ってます。

紅はどちらかといえばヒロインの肩を持ちますが、カカシが傷付いてるのを察しています。
姐さん。好き。




今回の曲は
加藤ミリヤさんの
SAYONARAベイベーです。
ただ、
それをイメージしつつも
2019年11月27日に配信?された
SAYONARAベイベー feat.SKY-HI
に若干寄せました。

私の好きなSKY-HI(*¨*)←



はい。笑
えー、切ない曲ですよね。
知っている方もいるかと思いますが
知らない方は良かったら
聴いてみて下さいね。

歌詞置いていきます。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

SAYONARAベイベー/加藤ミリヤ


熱い視線に導かれ 恋に落ちた瞬間
運命だと感じた
私はきっとあなたに会うため生まれたんだ
本気でそう思ったのに

(もう)時間は(流)れたのに
あなたはまだ謎に包まれたまま
(質)問には曖昧なAnswer
あなたのことを私は何も知らない

「サヨナラ」 『いや言わせない』
「嘘よ傍にいて」 『君をずっと離さない』
「愛してる?」 『あぁ愛してるよ』
「信じてもいいの?」 『好きだよ こっちおいでよ』

「寂しい」 『今忙しい』
「後で電話して」 『必ず掛ける 待ってて』
「お願い」 『今夜行くから』
「やっと会えるのね」 『僕も会いたい いつでも』
変わりたいのに私は何も変わってない

愛してるって言われる度に信じてたけど
関係は疑問だらけで
別れたいのに別れられない
悩み悩んで何も喉を通らない

(気付)かない(フリ)してた
あなたの携帯いつもロックされてる
(私)の電話には滅多に出ない
気になる だけどそんなこと聞けないよ

「会いたい」 『僕も会いたい』
「ほんとに?嘘じゃない?」 『僕には君しかいない』
「もう無理」 『いいや 無理なんかじゃない』
「信じてるずっと」 『愛してる 君だけを』

「今どこ?」 『急にどうしたの?』
「何考えてるの?」 『いつも君を想ってるよ』
「嘘つき」 『嘘なんかじゃない』
「愛してると言って」 『愛してるよ こんなにも』
偽りの会話ただ繰り返してるだけ

これでいいの? いい訳ないよ
私はちっとも愛されてないの
今日も言えない だけど言いたい
SAYOANARAベイベー すごくツライ。

「サヨナラ」 『いや言わせない』
「嘘よ傍にいて」 『君をずっと離さない』
「愛してる?」 『あぁ愛してるよ』
「信じてもいいの?」 『好きだよ こっちおいでよ』

「会いたい」 『僕も会いたい』
「ほんとに?嘘じゃない?」 『僕には君しかいない』
「もう無理」 『いいや無理なんかじゃない』
「信じてるずっと」 『愛してる 君だけを』

わかってるのにやっぱりサヨナラは言えない


ーーーーーーーーーーーーーーーー

SAYONARAベイベー feat.SKY-HI/加藤ミリヤ&SKY-HI


熱い視線に導かれ 恋に落ちた瞬間
運命だと感じた
私はきっとあなたに会うため生まれたんだ
本気でそう思ったのに

(もう)時間は(流)れたのに
あなたはまだ謎に包まれたまま
(質)問には曖昧なAnswer
あなたのことを私は何も知らない

「サヨナラ」 『いや言わせないぜ ベイベー』
「嘘よ傍にいて」 『君をずっと離さない、永遠』
「愛してる?」 『愛してるよ 当り前だって』
「信じてもいいの?」 『好きだよ こっちおいでよ』

「寂しい」 『今忙しいんだよ ごめん』
「後で電話して」 『必ず掛けるよ マイベイベー』
「お願い」 『絶対今夜行くよ 待って』
「やっと会えるのね」 『僕(俺)も会いたい いつでも』
変わりたいのに私は何も変わってない

愛してるって言われる度に信じてたけど
関係は疑問だらけで
別れたいのに別れられない
悩み悩んで何も喉を通らない

(気付)かない(フリ)してた
あなたの携帯いつもロックされてる
(私)の電話には滅多に出ない
気になる だけどそんなこと聞けないよ

「会いたい」 『僕(俺)の方が会いたい』
「ほんとに?嘘じゃない?」 『僕(俺)には君しかいない』
「もう無理」 『いいや 無理なんかじゃない』
「信じてるずっと」 『愛してる 君だけを』

「今どこ?」 『いきなり どうしたの?』
「何考えてるの?」 『いつも君だけを想ってる』
「嘘つき」 『いいや、嘘なんかじゃない』
「愛してると言って」 『愛してるよ こんなにも』
偽りの会話ただ繰り返してるだけ

これでいいの? いい訳ないよ
私はちっとも愛されてないの
今日も言えない だけど言いたい
SAYOANARAベイベー すごくツライ。

何千何万回でも望む言葉をあげよう
ハグからキスその先まで抱いた姿は陽炎
“ちょっと待って今忙しい”
“今度埋め合わせるし”
“やめてよその目つき”
会話にもなんない

今、どこ、だれ、といるのかとか
聞い、たと、こで、信じないのさ
もう、どこ、かで、狂った歯車
too late too late too late….

不確かな絆は
解けるのも静かだ
あぁもし戻れるならあの日あの時間あのキスから

「サヨナラ」 『いや言わせないぜ ベイベー』
「嘘よ傍にいて」 『君をずっと離さない、永遠』
「愛してる?」 『愛してるさ 当り前だって』
「信じてもいいの?」 『好きだよ こっちおいでよ』

「会いたい」 『僕(俺)の方が会いたい』
「ほんとに?嘘じゃない?」 『僕(俺)には君しかいない』
「もう無理」 『いいや 無理なんかじゃない』
「信じてるずっと」 『愛してる 君だけを』
わかってるのにやっぱりサヨナラは言えない

もう戻れやしないね Ah SAYONARAベイベー




2019.11.29.月猫
2020.08.19.移動

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