黒い鉄の惑星 | ナノ



月明かりが照らす部屋の中、兵部京介は閉じていた瞼をゆっくりと開けて、上体を起こした。

今彼の脳味噌を駆け巡るのは、彼自身が死ぬという予知夢。黒いアスファルトに赤い水溜まりを作ってうつ伏せになっている映像は、確かに“兵部京介”が死ぬという予知のようだ。しかし、彼はまるでそれを他人事のように捉えていた。普通であれば、己の死の予知をしたならば焦ったり解決策を探し出そうとしたりと忙しなく頭を働かす。そして、心の内に広がる虚無感と絶望感の狭間で嘆いたりするものだろう。
だが、兵部京介にそういった表情は見えない。額に汗はなく、眉間に皺もない。本当に自分の死だと捉えているのだろうか。真っ直ぐと見据えられているその眼差しは、現実を有りの侭に写しているように冷めているようにも見える。


「もうそろそろだ」


ぽつりと呟いた言葉は暗くて冷たい闇に溶けていった。兵部京介の瞳が、微かに揺れた。

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