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及川徹という人間は、誰よりもバレーに執着をし、誰よりも影で努力をし、誰よりも統率力とチームメイトからの信頼が高かった。

頭の回転も早く、選手一人一人の良さをうまく引き出し、正確にボールを放つ。

運動もでき、頭が良い。それだけでも他人を惹き付けるには十分過ぎる要素。だけどそれだけではなかった。及川はずば抜けて容姿が整っていた。モデルのような顔立ちと対応。女子からは絶大に人気があった。及川に一瞬でもときめいた女子など溢れるほどいるだろう。


だが、そんな及川徹は、それ以上に性格が悪かった。

思わせ振りな言動、それを周り(主に男子)に見せつけるかのような振る舞い。これだけならその辺のアイドルと変わりないが、特に酷いのは部活中だ。新しく入ってきた新入生にちょっかいを出し、試合中も挑発したり、わざと凹むような言葉を吐く(しかもそのときの表情は妙に生き生きしているところが、また質が悪い)。いつも彼は食えない笑顔で、これも指導の一環だと言うが、それでも見ているこちらとしては気分が悪い。


「やぁ、なまえちゃん。今日も可愛いね」

「近寄んな腐れイケメン」

及川は作り物の笑みを張り付けヒラヒラと手を振り近付いてくる。近寄るなと言っても無駄なのはいつものこと。名前も呼ぶなと言っているのにこのザマである。

「そんなこと言って〜。いつも部活見に来てるじゃん?恥ずかしがらなくても良いのに」

「何度も言ってるけど、別にあんた自身が好きで見に行ってるんじゃないの」

所々強調するように目の前の彼に言う。及川が近付いてくると他の女子からの目線が痛い。嫉妬というやつだろう。是非勘弁して欲しい。私はただ絡まれている被害者なのに、こんなのは絶対におかしい。

「まあいいや、また放課後にね」

及川は百点満点の笑顔でそう言い、去っていった。女子の目線は私から及川へ。なんだこの変わりようは。全くもって不愉快だ。女子たちも、及川も。

ハァ、とため息を吐けば、遠くの方で黄色い声が上がる。きっと及川関連に違いない。こんなのは日常茶飯事だ。

「まったく、なんであんなのがモテるのか意味がわからない」

そう言えば、隣にいる友人はちらりと私を見て呆れたように息をついた。

「でもなまえは及川のことかっこいいとは思ってるんでしょ」

「当たり前じゃない。顔は宇宙で一番素敵よ、顔はね」

「あんた、面食いだもんね」

そう、私は俗に言う面食いなのだ。及川のことは入学当初から目をつけていた。バレーの試合も練習も毎回欠かさず見に行っている。それはもう全力で。ただし私が見ているのは飽くまで顔だ。顔だけなのだ。

「だけど中には、なまえが及川のことを好きだと思ってる人もいるみたいだよ」

「は…」

堪ったもんじゃない。誰がこんな奴を好くものか。確かに顔は認める。及川はとてもかっこいい。宇宙一のイケメン。それは認めよう。しかし、しかしだ。あんな女を弄んで捨てているような男を私が好いているなんて、そんな阿呆みたいな噂があっていいはずがない。

「…本当に嫌いなんだね」

もう一度言っておこう。私が好きなのは顔だけです。


(所詮は面食い)

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