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「左様なら」

いつか、その日が来るとわかっていた。あなたと決別するその日を。何故ならあなたはスリザリンで、私はグリフィンドール。当たり前の未来だった。どれほど愛し合っていても、どれだけ二人で愛を誓っても変わらなかった結末。酔いしれていた甘い私たちの時の中では何にも勝りそうで輝いていて宝物のようだったそれは、世に出てしまえばただのガラクタ。射抜くような銃弾でもなければ傷を付ける刃にもなれなかった、二人のアイ。矢張り私たちはまだまだ未熟で非力な子供なのだ。世間の法則に抗うことさえ儘ならない今の私たちには、周りと足並みを合わせるだけしか出来ない。


「左様なら」

レギュラスのこの言葉を聞いてから、半年が経つ。同じホグワーツにいる筈なのに、私はあの日から一度も彼を見掛けない。優しい彼のことだ、きっと気を遣ってくれてるのかもしれない。私は泣き虫だから、そして誰よりもそれを知っている彼だから、そうに違いない。

だけど、違うよ。違うの、レギュラス。私はそんなことがして欲しいんじゃない。ねえ、本当はわかってるんでしょう。頭の良いあなたなら私が部屋でどれだけ泣いているか、わかっているでしょう。そんなの狡い。どうして避けるの。どうして名前を呼んでくれないの。どうして抱き締めてくれないの。どうして。

「左様なら、なまえ」

私はあの日のことを鮮明に覚えている。強張った表情。グレーの瞳。潤いのない乾燥した唇。その間から漏れた彩りのない別れの台詞。まるであの乾いた唇の皮がぼろぼろと剥がれるみたいに出て来る言葉は、やんわりと私の涙腺を刺激した。それでも泣くことが出来なかったのは、あなたのとても冷たい瞳の奥に潜む微かな熱を見付けたから。辛いのは私だけじゃない。苦しい思いをしているのはあなたもおんなじ。だって、そんな運命の下に産まれ落ちてしまったんだもの。どうしようもなかった。どんなに肩を震わせてしゃくり上げたって、どんなに声を張り上げて泣き叫んだって、私の目が赤く腫れて喉が潰れるだけ。世の中は何も変わらない。ただじっと蹲って静かに泣いているだけでは何も動いてはくれない。わかっていた、そんなことは。そう、表面ではいくらでも理解出来る。でも、それでもと思いながら頬を伝う涙は果たして罪なのだろうか。


レギュラスにあいたい。陳腐でチープで未練がましい願いだと思った。所属している寮の象徴とも言える勇猛果敢とは程遠い。弱い、私はこんなにも頼りなく情けない。柔らかいベッドに寝転びふわふわの布団に包まっても、浅い眠りしか訪れない。ぬるい温もりは所詮自分のものでしかなく、包み込んでいるものもただの布団でしかない。彼ではない、レギュラスではない。

ねえ。ねえ、レギュラス。あなたに会いたいわ。そう独り言ちれば外から心地好い風が舞い込んだ。窓が開いていて夜がこちらを覗いていた。そして遠い宇宙のレグルス星を探して、今宵も私は夢を見る。


夢でいいから君に逢いたい


(目を瞑って夜を渉る)

君の瞳はエメラルドさまに提出

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