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闇の帝王が死に、学生時代から恋慕の情を抱いていたスネイプが死んだ。


勘違いされがちで、他人に嫌われやすい男だったが、スネイプの細やかな優しさや関心事に対する姿勢と眼差しに惹かれ、同じ寮になれたことを本当に嬉しく思った。入学当初は家柄を気にする人や鼻に掛けたりする人ばかりでうんざりしたけど、彼を好きになってからはスリザリンも悪くないなって思えたの。初めこそは無愛想だったけど、だんだん会話も続くようになって「案外いい線いってるんじゃない?」なんて浮かれたりもした。

でも、そんなのただの思い違いだった。スネイプには既に好きな人がいた。しかもとびきり顔が整っていて、加えて愛嬌のある女の子。一言で言うなら理想的な美人。

リリー・エバンズ。それが私の好きな彼が生涯愛し尽くしたグリフィンドール寮生の名前。綺麗な赤毛の長い髪が彼女の美しさを更に際立たせ、他のどの生徒よりも目立たせていた。ついでに頭も良くて努力家だったし性格も申し分なかった。容姿良し、頭脳も良し、人柄も良いだなんて非の打ち所がない。だけど、彼女はマグル生まれだった。グリフィンドールで、マグル生まれ。それはスリザリンの生徒からしてみれば、美味しい話である。美人で能力や人格とも備わったエバンズ、忌み嫌っていて対立している寮生である彼女を揶揄するのに、「マグル生まれ」という事実は打ってつけだった。だから私と同じ寮の人間はよくエバンズを「穢れた血」と言って嗤っていた。

普通であるならば、その仲間内に私も居なければならなかったのかもしれないが、それは出来なかった。理由は簡単。スネイプに嫌われたくなかったから。彼はエバンズと仲が良かった。話を聞けば、二人は幼馴染みだという。彼女は、マグル生まれなのに。彼は、スリザリンなのに。あなた、純血主義じゃなかったの?幼い頃から親しいって、そんなに特別なことなの?そんなに単純なことなの?って最初は心の中でぐるぐる考えて目眩すらした。でも、答えなんてすぐに出た。彼が紛れもなく彼女を愛しているからなのだと。

…今でも忘れていない。エバンズに向ける、彼の慈しむような表情と柔らかな瞳。彼女を目前にすれば、何だって捨てられる。そんな風に思っているようにも感じ取れた。


そして私のその憶測は間違っていなかった。ほら、実際に彼は愛する彼女のために命を捨てたわ。彼女を殺したのは自分なんだと常に十字架を背負いながら、彼は最も危険な二重スパイをやり遂げた。夜な夜な自責の念に駆られながら、彼女の息子ハリー・ポッターを守り、闇の帝王の密偵を務めたスネイプ。そうして最期は呆気なく殺されてしまった。私を置いて。


人々は皆、彼は可哀想な奴だと嘆いた。確かに世間からしてみれば同情の念が沸き上がるかもしれない。一途にずっと想い続けていた女性は自分の心無い一言で疎遠になり、その何年後かに彼と犬猿の仲であった男が彼女と婚約。そして誰もが愛した赤毛の彼女は、鉤鼻で無愛想な彼が敬い尊んでいた闇の帝王に殺された。絶望に暮れながらも彼女の子供だけは守り抜いてみせようとすれば、その子供は彼が世界で一番嫌いだったあの男と瓜二つの男の子で───。


でも、でもね。そんな“可哀想”な男よりもずっと可哀想な女がいるのよ。
大好きな一人の男のために女友達も作らず暇があれば彼の後ろを付いて回り、彼の後を追いなりたくなかった死喰い人にもなった。そして闇側から足を洗い、ダンブルドアの元へ戻り闇の帝王の二重スパイも共にした女。彼に想いを伝えることもなく、散々振り回されてやがてその男に先立たれてしまった、そんな女。


いつか、振り向いてくれると思っていた。スネイプのために全てを投げ出してきたのだ。私の気持ちなんて彼は疾うに知っていただろう。だから、私はいつの日にか彼も私の方へ傾いてくれると思い込んでいた。だけど、そんな彼は私の期待など潔く裏切って最期まで、リリーを愛して、逝った。


スネイプが可哀想?笑わせないで。

「セブルスの、馬鹿」

私は、あんたなんか憐れんであげないんだから。


苦しくて泣いた、それでもまだ闇は晴れない


(涙がはらはら落ちれど)

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