おまえの抜け殻は酷く美しい | ナノ
ついにここまで来てしまった。いったいどんな顔をして彼の顔を見れば良いのか。いくら考えても答えが出ないと知っておきながらあれこれと考えて悩み、思いを巡らせる。重い足をゆっくりと引き摺り無駄な時間稼ぎをして足掻く姿は、実に無様だ。しかしそんなものが通用する由もなかった。一歩でも半歩でも、進んでいることに変わりはないのだ。そうして私は辿り着いてしまった。目の前には重そうな鉄の扉。この壁の向こうの世界には、影山がいる。そう考えるだけで足が竦んでしまいそうになる。怖い。拒絶されるのが、恨めしそうな眼差しで見詰められるのが。この期に及んでまだ未練がましく恐れてしまう自分がいた。馬鹿みたいだ。

きっと及川先輩は影山に私が来ていることを教えるだろう。もしかしたらもう伝わっているかもしれない。影山は、私がここに見に来ていると知ったら傷付くだろうか?それとも依然とした態度でのけのけと来たことに対して怒りを覚えるだろうか?どちらにせよ、来るべきではなかったことは明らかだったのだ。しかし今では後の祭り。どうしようもない。それに、ここで何もなかったことにして逃げてしまえば、明日には後悔しかしていないだろうし、何よりその事実を影山が知れば更に傷付けるような気がした。

半端な気持ちで突っ走って途中で立ち止まる。見栄ばかりを張って、それが何になると言うのだ。結局は誰かの感情を損なう刃にしかならない。ここでこの連鎖を絶ち切らなければ、もう機会はないかもしれない。これを逃せば、また私は違う誰かを同じような形で傷つけるのだろう。
終わらせなければ、この悪循環を。今度こそ、あの人に謝るの。先日まで彼がバレーしている姿が見たいと願ったのは私じゃないか。


きゅっきゅ、と体育館の床とシューズの擦れる音が聞こえてくる。かつて聞き慣れた音に後押しされるように、私はゆっくりとドアノブを捻った。