おまえの抜け殻は酷く美しい | ナノ
あの後、及川先輩から詳しい時間と青葉城西高校への行き方を教えてもらい、その日はいつもよりも早く寝た。もちろん初めて行く場所だから迷っても間に合うように少し余裕をもって家を出た。しかし、現実は上手くいかないようだ。私は見事に迷子になってしまった。一向に学校らしき建物は見えない。あぁ、なんで今日に限って。神様という奴は本当に意地悪だ。

ちらりと左腕に着いている腕時計を睨む。予定としていた時刻より十分過ぎていた。歩き回ったせいで汗がじっとりと滲んできている。真上から照り付ける日射しは痛く感じた。まるで、責められているような。
よく考えてみれば、傲慢な行動だ。中学時代の自分を見て見ぬ振りをし更には善人面をしていた人間が、ある日忽然と目の前に現れたらどう思うのか。痴がましい、腹立たしい、虫唾が走る。挙げられる単語はいくらでもある。強い嫌悪感で顔を歪めたり顰めたりするに違いない。

どうして私はこうも学習しないのだろう。自分の都合と浅はかな考えで傷付けてばかりだ。
断れば良かったのかもしれない。その日は用事があるからと適当な言い訳を取り付けてしまえば良かったのだ。何故そうしなかったのか、何か期待でもしていたのだろうか。現金な人間だ。そんな自分がとても恥ずかしい。

足取りが重い。気分はどんどん沈んでいく。

「…あ、」

青葉城西高校。そう記された校門を前に、歩みを止める。

もう、後戻りは出来ない。そう告げられているようだった。
今日は晴天。皮肉なことに、太陽を隠してくれる雲は何処にも見当たらない。憎いほど眩しく輝かしいそれは、今も尚私を咎めているかのようだ。…本当に、神様は意地が悪い。