おまえの抜け殻は酷く美しい | ナノ
大会当日。北一は順調に勝ち進んでいた。しかし、影山の独断プレーは相変わらず目立った。

不満そうな選手たちの面持ち。それでも彼は依然とその態度を変えようとしない。当たり前だ。今までそうやって勝ってきたのだから。今さら変えようがない。変えられない。


先日及川先輩に言われたあの一言が、脳内でリフレインされる。どうか、どうか何事もなく終わりますように。その祈りは時間が経つにつれて強くなった。それは、なんだか自分に言い聞かしているようにも思えた。


影山が、ふわりとボールをあげる。宙を舞う、完全な円。緑と赤と白が混ざった球は、軽やかに空に浮かんだ。息を、飲んだ。

その先は、誰も、いなかった。


「え…」

最も恐れていたことが起きてしまった。喉の奥が急に熱くなった。背中から変な汗がどっと出てくる。

彼は天才だ。いつだったか、及川先輩もそう言っていた。決して他人には真似できないような体勢から、ありえないようなところにボールを持っていく。しかし、ボールがあがる箇所は影山だけがわかっているわけだから、もちろん他の選手たちは戸惑うし不満を持つ。

そして今、彼の投げたボールは、誰にも触れることなく地に落ちた。“取れなかった”のではなく、“取らなかった”。私には、そう見えた。


あのときの及川先輩の笑みがサッと脳裏を横切る。
きっと、先輩はわかっていたのだろう。こうなるだろうということを。でも、もしかしたら私も心のどこかで、薄々とわかっていたのだ。自分まで影山をそんな風に見てしまわないように、ずっと気付かない振りをしていたのかもしれない。せめて、私だけは。そう思っていたのかもしれない。だけど、所詮そんなものはただの偽善で、思い上がりにすぎなかった。表面だけいい人のように振る舞って、「私はあなたの味方だよ」なんて。でも結局はなにも出来なかった臆病者だったのだ。直すべきであった影山のプレースタイルも、私からは一度も口にしたことがなかった。怖かったのだ。「なにも知らないくせに」と拒絶されてしまうのが。とんでもない怖がりだ。

コート内で何かを言い合っているのが聞こえる。影山が苦しそうに顔を歪めていた。

ベンチに戻るよう指示を受けた彼の背中は、頼りなさそうに見え、泣いているようにも見えた。