おまえの抜け殻は酷く美しい | ナノ
焼けるような橙色と落ち着いた薄暗い紺色が、空にグラデーションを演出していた。部活も終わり、部員たちは仲の良い友人らと小さな集団を作り、散り散りになっていく。もちろん影山は一人だ。そして私も彼と同じく、一人で帰っていた。
たまに影山との打ち合わせのために隣に並んで帰るが、私も彼も年頃だ。いくら部活の話とはいえ、中学生の男女が毎日ふたりで歩幅を合わせて帰るのは、やはり躊躇いがある。きっとそれは、影山も同じようなことを考えているのだろう。そのため、やはり私たちは大概は別々に個人で下校していた。

男女の差と言うべきか、私と部員たちの距離はどんどんと離れていき、更には帰宅方向の関係もあって一人になっていた。
日が暮れ、幾分か人も少なくなった商店街は、なんだか少し寂れて見える。

「なまえちゃん」

聞き覚えのある声に呼び止められる。そちらの方に視線を彷徨わせれば、かつての先輩が佇んでいた。

「及川先輩、ご無沙汰してます」

「部活お疲れさま。突然で悪いんだけど、少し時間もらえる?」

思いもよらない言葉に私は無意識に頷いてしまって、そのまま先輩の後を追って飲食店に入った。

可愛らしい女の店員に案内され、先輩と向かい合って座る。先輩は、相変わらず貼り付けたような爽やかな笑顔で店員を呼び止めて私の分まで注文を済ませた。

「オレンジジュースで大丈夫だった?」

「はい」

そう言えば、またにこりと笑ってその歪んだ口を開いた。

「今週末だね、大会。どう?選手の調子は」

「はい、今のところ問題ないです」

先程の店員が飲み物を持ってきて慣れた手付きでテーブルに置く。ぺこりとお辞儀をされ、曖昧に笑ってグラスの縁に口をつけた。及川先輩も運ばれてきた紅茶を軽く喉に通している。

すると、先輩とかちりと目が合い、柔らかく微笑んだ。

「それ、本当?」

「え?」

「本当に選手の皆が皆、調子が良いのかって話」


なまえちゃんはさ、一年の頃から一生懸命仕事をこなしてきて、それは俺が引退してからもそうだと思うよ。いつもドリンク作ってタオルも準備してボールを拾ったり出したりもしてくれた。次の対戦校のビデオも録ってくれたし、選手の分析もそれなりに頑張ってた。すごいと思うよ?だけどさ、


先輩は饒舌に口を回して、淡々とただ心にある思いをそのまま言っているように聞こえた。しかし一度言葉を切り、ゆっくりと息を吐いてから、再びその口を開く。

「部員同士の信頼関係はどう?」


及川先輩は、答えられない私を見て、うっすらと目を細めて笑った。

「試合当日、何も起こらないといいね」

喉がカラカラに乾いて、うまく声が出せない。目の前にあるオレンジジュースに手を伸ばそうとしても、うまく腕が動かない。

「応援、してるよ」

オレンジジュースが入ったグラスについている水滴が、一滴、重力に負けて落ちた。氷はすでに溶け始めていて、水面にはうっすらと透明な層が出来ていた。


私は、何を言ったら良いかわからなかった。