大嫌いな優しい人 | ナノ
人間誰しも視界に入れるだけでも胸焼けするくらい腹が立ち、どうしても受け入れられない人種というのがいると思う。これはきっと万国共通で、もしかしたら人類を通り越して全ての生き物にも通用する論理かもしれない。そして私は橘真琴というクラスメートが大嫌いである。所謂私の中では専らそういう人種だったのだ。この男のことをクラスの女子は「優しくて格好良くて、気配りも上手な良い人」とよく称していた。私にはそれが理解できないでいる。

優しい?気配りが上手?そんなもの、表面だけに決まってるじゃないか。何故あの男が赤の他人である君たちなんかに優しくするのか、少しでも考えたことがあるのだろうか。どうせ交友関係が円滑に進むからだとか見返りがどうだとか、そんな裏のある理由なのは分かり切っていることだ。

しかしこのクラスの女子(もちろん私を除く)はそういったものに疑問など持たないらしく、如何にも頭の悪そうなある子も「他の男子とは全然違う」と評価をしていた。
何が違うのだろう。だって橘真琴は男だ。ごく普通の健全な高校生。あんなに優しげで、人当たりの良さそうな顔をしていても下心という下心は絶対にあるし興味だってあるに決まっている。もう高校二年生だし、もしかしたらそういう行為は疾うの昔に済ましているかもしれない。そう考えると更に憎く思えてくる。

いったい何が違うの?優しいってなに?その辺の男子と違ってセックス中の愛撫が優しいとか?意味わかんない。結局はどれも変わらないでしょう。それなのに、あの男といったら誰彼構わず笑顔を振り撒き、「僕だけは他の人と違います」と言った顔をして、引き込もうとするのだ。


今、橘真琴は幼馴染みである七瀬遥と話している。心の中はどうなっているのだろう。真っ黒なクレヨンで力一杯塗り潰されているに違いない。

私の視線に気付いたのか、橘真琴がこちらを向く。目があった。にこりと笑われた。
どうせあんたも皆と一緒。だったらなんで隠してるの。隠すことが利口で優れていて素敵なことだとでも考えているの。忌々しいと思った。汚い汚い汚い。そうやって汚い部分を隠して綺麗事ばっかり並べる奴が、一番汚くて最低で、大嫌いだ。

私はそんな“優しい”橘真琴を盛大に睨んで教室を後にした。
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