『Richmanの価値観』
放課後、真壁君に呼び止められた。
「ごめんなさい。今日、バイトなんです」
そう伝えたら、彼はドヤ顔で「ならばバイトを休めばいい」と宣った。
そんな殺生な。
「……えっと、真壁君。私が突然休むと、バイト先に迷惑がかかりますから」
「代わりの者を向かわせる。ウェイトレスのバイトなら誰がやっても同じだろう?」
「……。あの真壁君はモデルさんのバイトをされていますよね」
教室のドア前で話す私たちは、それなりに目立ってはいるのだろうけど。
今はそんなこと気にしてはいられない。
早く彼を説得してしまわねば。
「さすがに楢川も知っていたか」
「雑誌で拝見したことがあります」
そうかそうかと満足気に頷く真壁君に少しだけ棘のある視線を向ける。
「形や表現こそ違えど、同じなんです。真壁君にとってはただのファミレスバイトでも私にとっては大事な責任ある仕事なんです」
「……、楢川?」
「軽んじられると、とても不愉快だと言ったんですよ。じゃあ私、急ぎますので」
呆然と立ち竦む真壁君の横を通り過ぎ、私はバイトに向かった。
悪い人じゃないのはわかってる。
だけど、彼は少し傲慢だと思うのです。
(12/8/10)
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