『一とモブ』









「聴いてください……今日、二階堂先生に怒られてしまいました。……でも先生は怒ってもイケメンでしたよ……」



放課後、俺と仲良しのタマに相談を持ち掛けてる女子がいた。



「……、アンタは……」

「……!!」



驚いたらしい彼女は、まるで猫にゃんみたいに肩をビクッとさせて俺の方を見る。
まさか見られてるとは思わなかったみたいだ。



「珍しーな、タマが人の話聴いてるなんて」

「お友達ですか?」

「あぁ。楢川は動物に好かれやすいんだなぁ」



楢川に寄り添うように丸まったタマを撫でながら言うと、すごい驚いた顔をされた。
え。
俺なにか変なこと言ったか?



「……!く、草薙くん……!なんで私の名前っ、知ってるんですか?!」

「え。…………あぁ、そういえば……なんでだろ?」



確かに、いつもならクラスメートの名前なんてそう覚えられないのに。
よく翼が楢川の話してるからかな。

まじまじと彼女を見つめたら、なぜか嫌な顔をされた。
そんなあからさまに不快な顔とかされたことないから、正直、戸惑う。



「まさか……草薙君が、いちモブである私を認知してるなんて……何かおかしい……」

「モブ?」

「あっ、いえ!なんでもないです!……ただ……」



体操座りのまま、タマの頚を擦ってる楢川の視線が俺に向くことはなくて。
そのことにちょっとだけ胸がモヤモヤした。



「ただ……?」



だけど、それは一瞬で。



「覚えて頂いてるなんて、嬉しいなぁ……って」



次の瞬間には、少し照れたように笑う彼女から目が離せなくなっていた。










(12/8/4)



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