『翼とモブ』
俺のクラスには変な女が二人いる。
一人はクラス担任。
そして、もう一人は。
「真壁君、そこ、漢字違いますけど」
「……!これは……っ、楢川が気づくかわざと間違えたんだ!」
「あ、そうだったんですか」
じゃあ気づいてよかったと笑う楢川はやはり変な女だ。
俺が何を言っても怒らない。
これはまぁ、当然といえば当然だな。
だが、逆もない。
何かを与えても他の奴等みたいに喜ばない。
いつもヘラヘラしている癖に。
そして俺に当然のように仕事をさせる。
今だって、日直だからと放課後呼び止められた。
俺はバカサイユに向かうところだったというのに。
「それを書き終えたら帰れますから、頑張ってください」
「……Shit!なぜ俺がこんなことをしなければならないんだ……!」
「汚い単語使わないでくださいよ。……さっきも言いましたけど日直なんです、今日の出来事書くだけですよ」
少しだけ、楢川が隣の席から此方に身を寄せてくる。
フワリと優しい香りが鼻を擽る。
顔を上げれば、すぐ横に彼女がいた。
「……っ」
「そういえば……今日は一日、教室にいましたね、真壁君」
「なっ、なぜ知っている?!」
「……いや私、同じクラスですよ。……、それに」
視線が、ぶつかる。
「真壁君みたいにキラキラした人、いたらすぐ視界に入っちゃいますから」
だから、いないとすぐ分かるんです。
そう言って、楢川が笑った。
さっきよりもその笑顔が柔らかく感じたのは、気のせいだろうか。
無意識に速まる鼓動の意味を、俺はまだ知らない。
(12/8/4)
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