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第十二話「進行」
「学園祭準備の、補助?」
「えぇ。楢川さんには監督としてI'sのメンバーを、まぁ……砕けて言ってしまうと見張って欲しいのです」
「随分砕いたね」
「相手が貴女ですから」
ニッコリ笑われてしまえば此方も笑うしかない。
甘粕君のこういうトコロ、好きだなぁ。
というか……この話、確かFDのやつ、だよね?
「……ちなみにアキラさんは」
「彼女は今回、タクトと買い出しに行くことになっています」
「えっ?」
思わず大きめの声が出てしまう。
そうか、アキラさんが、タクトと。
「何か?」と不思議そうな顔をする彼と二、三言話して別れた後。
私は宛もなく歩みを進めた。
「ユラ」
「……?あ、あぁ……、ヨウスケ」
落ち着いた声に呼ばれ、足を止める。
ちょうど教室から出てきた所らしいヨウスケが、此方へと歩いてきた。
相変わらず、エプロンがよく似合う。
「どうした?眉間に皺が寄ってる」
「……、え、えぇぇ……ウソだぁ!」
「嘘じゃない」
トン、と眉間を軽く突かれ顔に熱が集まるのを感じる。
ヨウスケは無意識でこういう行動をとってくるから怖い。
優しく微笑んで見下ろしてくる蒼い瞳。
そうだ、彼は、いつでも不器用に優しい。
「……ところで、新しいおやつを考案してみたんだけど、食べてみないか?」
「え、は?お、おやつ?」
「こっち」
手を引かれて、一緒に調理室へ。
何も聞かないでいてくれるその背中に、何だか泣きたくなった。
本当はヨウスケにも、幸せになって欲しいのに。
彼とタクトの不幸を天秤にかけている私は、なんて愚かなの。
(12/7/11)
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