きみは




うっかりポケットなアレが存在する世界にトリップして、早1ヶ月。

私はすっかりこっちの生活に馴染んでいた。

トキワシティは過ごしやすくて、とても快適だ。
グリーンは何かと世話を焼いてくれるし、ジムのトレーナーさん達やナナミお姉さんも親切にしてくれる。

とても贅沢な話。
簡単なジムのお手伝いしかしてないのが心苦しいばかりだ。



「……グリーン。何か仕事はない?」

「いや、今は…」

「今とかじゃなくて、定期的な仕事だよ……!」

「……ユラにやってもらうようなことは特にねぇな…」



ジムの片隅でなんか難しそうな書類に目を通すグリーンに申し出てみるも、あっさり断られてしまった。

後ろからガン見しても微動だにしない辺り、見られ慣れてるのかと思う。



「今の私さ、タダ飯を頂いてるみたいなものじゃない」

「別に、んなコトはないだろ?ジムだけじゃなくて姉さんとかじーさんの手伝いもしてるらしいじゃねーか」

「……でも、あくまで手伝いだし!仕事じゃないし!」



我が儘かもしれないけど、何か、具体的な形として皆の役に立ちたいんだよ。

そう告げれば困った顔をされてしまう。

あぁ、またグリーンを困らせてしまった。



「……ごめん。仕事中に。ちょっと頭冷やしてくる」

「はっ?おま、ちょっ、今からか?!ダメに決まってんだろ……!」

「え、なんで?」



突然引き止めにかかる彼の表情は至って真剣だ。

不思議に思って振り返れば、半ば抱き締められるように引き寄せられた。



「……ぇ、いや、いやいや……!グリーンさん……っ?」

「こんな真っ暗な中一人で出ていくヤツがあるかよ!」



忘れてはならないことが二つ。


彼が実はとてもイケメンだという事。
そして残念なことに私にはイケメンに耐性がないという事。



「あっ、あの、わかった……!わかったので!ジムの隅っこで頭冷やすのに変更するので……!!」

「そうしてくれ、もうちょいで終わるから」



そしたら、一緒に帰ろう。

そう微笑み掛けてくれた彼に、私も何とか笑みを返した。



ほんとに、優しいのだから。



「……グリーン、面倒見よくって、なんかお兄ちゃんみたい」

「……!」



不意に出た言葉を受けて、グリーンは驚いたように目を見開く。

そしてすぐに、それは不機嫌な表情へと変わった。


あれ?なんで?



「ばか、そんなんじゃねーよ」
(……ユラだから)



そう呟いた彼の真意を、私はまだ知らない。








(12/1/8)

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