疾走ホリディ
「はっ……はっ、はぁ……っ!」
自分の呼吸音が耳につく。
上がりきった息を整える間すら惜しくて、とにかく必死で足を動かした。
なんで経理事務担当の私がこんなハードな走りを強いられているかといえば、話は三十分程前に遡る。
「……鬼ごっこ、ですか」
「えぇ、協力してもらえる?」
ライダー達の教官であるアキラさんの頼みとあらば断る理由もない。
何やら夏期休暇スケジュールで気力が極端に減退気味の彼らの為に考えた、レクリエーションを兼ねた訓練を行いたいのだとか。
二つ返事で引き受けたあとに聞かされた詳細に、私はとんでもないコトを引き受けたと気づいた。
「ヨウスケ君たちが鬼だなんて……っ逃げきれるわけないですよ……!」
「大丈夫!鬼はヨウスケくんとカズキくん、あとはヒジリくんだけだから」
「いやあんま大丈夫ではない気が……」
「タクトくん達は逆に鬼から貴女を守る側よ」
つまり、タクト君たちには助けを求めて良い、ということらしい。
どうやら断る選択肢はすでに消滅したようだ。
「ちょっとしたご褒美付きだから、みんな張り切ってるの。ユラちゃんもがんばってね!」
「……はい」
そこからが、地獄の耐久レースの始まりだ。
見つかっては逃がされ、逃げては見つかるの繰り返し。
残り時間が10分を切った辺りで私の体力は最早限界に達しようとしていた。
曲がった廊下の先にいたタクト君にもたれ込むように駆け寄れば、細身の彼からは想像もつかないしっかりした力で抱き止められた。
「よかった無事か、ユラ」
「はぁ……っ、た、タクトく、…ん…!も、むり……ですっ、走れません……」
「フッ、そう思ってこのタイミングでコンタクトを図ったんだ」
「え?」
あ。笑顔が素敵。
とか間抜けなコトを考えていたら、急に感じる浮遊感。
「……っ、た、え、わ、…!?」
「語彙力が一気に乏しくなったな」
「そ、そんなことより……っおも、重いですよ!私!お、おろしてくださ……っ」
「却下する」
「えぇぇ……?」
気づけば、タクト君の細腕に抱えられている私。
まさかのお姫様抱っこなる状況に動揺を隠せない。
確かに今、誰かに見つかれば確実に捕まってしまうだろうけど。
「……っ」
「僕に任せておけ。ヒロとユウジとの対ヨウスケチームへのフォーメーションは完璧だ」
見上げたタクト君の横顔が、あまりにも頼もしくて。
「残り時間9分28秒。ユラを守り抜いてみせる」
うっかりコレが、鬼ごっこだってこと、忘れそうになっている私がいたのでした。
―――……。
鬼ごっこ終了後。
「結局、ご褒美ってなんだったんですか?」
「……チッ、ユラ一日所有権はタクト達のものだな」
「えぇぇ……っ?!き、聞いてませんがぁぁぁあ……?!!!」
リュウキュウは今日も平和です。
――――――――――
srxPSPでたよー
(12/5/1)
[ 101/189 ]
[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]