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第四話「音色」



歌声が聞こえる。

荒ぶるような、だけど切ないような不思議な響き。

声の主はとうに分かっている。

私は動かず、静かにその声に聴き入った。


 ―――……。


「ユラ、さん……?」

「……あ、こんにちはアキラさん」



たぶん、バンドの練習中であろう皆に差し入れを持って行く途中。
ばったり廊下で出会った彼女は、目の前にすると予想以上に華奢で。
本当に普通の女の子だった。

笑顔で会釈をすれば、戸惑ったように手を顔の前でパタパタさせる。

……かわいいな。



「そんな畏まらないで……!ちゃんとお話するのって、初めてよね?」

「はいっ。アキラさん、いつも忙しそうだけど……体調とか大丈夫ですか?」

「……!ありがとう。大丈夫、みんなもよくしてくれるし……」



少し照れたように俯く彼女に私は自然と笑みを浮かべていた。



私という異端な存在はあるものの。
彼女はきっと、彼らの中の誰かと恋に落ちるのだろう。



それが、叶うならば青の世界のタクトであれば。

彼はきっと、多くのものを亡くしても、幸せになれるはず。

ライトフライオノートと戦う術のない私にできる事があるとすれば、そのシナリオへ誘導することくらいだ。



他の皆には悪いけど、私はタクトのあの未来だけは、認めたくないの。



だから。



「アキラさん。いま皆でバンドの練習してると思うから、よかったらコレ……持ってってあげてください」



差し入れを有無を言わさず彼女に渡して、私は来た道を引き返した。



関わるのは、私じゃなくていいのだから。


 ―――……。


LAGの側にある海辺は、私のお気に入りの場所。

みんなの音と、波の音とが入り交じって、優しく響くから。



「私は、私にできることを……」



揺れる青の世界を見据えながら、独り呟いた声は、静かに溶けていった。










(12/1/26)



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