03
第三話「決意」
この世界の鍵となるアキラさんが来てから、なんとなく皆の様子がおかしくて。
それは仕方ないことなのだけど、彼女は自然と彼らに受け入れられるだろうからと触れずにいた。
そういえば、この世界は私というイレギュラーな存在を挟んで、どのルートを辿るのだろう。
そんなコトを考えながら過ごしていたある日の夜。
月がよく見える浜辺でぼんやりしていたら、背後から砂を踏む音がした。
「……ユラ」
「タクト?……っ、その顔……!」
長い髪を風に揺らしながら、ゆっくり歩いてくるタクトの頬は、派手に腫れていて。
思わず立ち上がって駆け寄ると、やんわり目を反らされてしまう。
これはたぶん、物語通りの内容。
アキラさんを庇うヨウスケと、タクトが拳をぶつけ合う、シナリオ通りの展開。
少し間を置いて、ゆるゆると今は赤く腫れた白い肌に手を伸ばした。
「……っ」
「……大丈夫?」
「……ユラの手は、冷たいな……」
そっとタクトの手が私のそれに重なる。
目を閉じて、考え込むような仕草を見せる彼を、ただ黙って見つめていた。
「彼女の存在は、僕らにとって良い結果をもたらすのだろうか……」
「……っ」
不意に呟かれた言葉は、私を激しく揺さぶる。
私の知っている物語通りに進めば、タクトは彼女に恋に落ちて……そして。
「タクトは、……っ!」
「え……?」
「……タクトは、私が幸せにするから……!」
絶対に、哀しい結末になんて逝かせない。
咄嗟にでた言葉は、陳腐なものだったけど。
きっと、彼には伝わったんじゃないだろうか。
背中に回った手に応えるように抱き締め返すと、僅かに笑う気配がした。
「……それは男の僕が言うべき台詞じゃないのか?」
「えっ、え?……ごめん……!」
「……ふふっ」
あ。
タクトが声に出して笑ってる。
なんだか嬉しくなってつられて笑えば、なぜか突然体を離されてしまった。
「……!ユラは……、誰とでもこういうコトができると、言っていたが……」
「え?」
「……こ、こっ、好意のある相手以外に、抱き締められたりしないコトをお勧めする……っ」
「は……?」
言ってる意味がイマイチ分からずに首を傾げれば、タクトは少しだけ私に顔を寄せる。
整った顔は、少しだけ紅潮して見えた。
「あんな風に、受け入れられると……都合の良い勘違いをしてしまいそうになるから……」
微かに震えた声は、私の心のどこか奥の方を。
静かに擽った。
(12/1/24)
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