Red Medicine
君の愛した世界。
君を愛した世界。
「またここに居たのか」
「……っ、ヨウスケ」
夕陽を浴びた彼女の姿がどうしようもなく愛しくて、俺は無意識に笑みを浮かべていた。
ゆっくりと歩み寄ると、ユラも立ち上がり此方へと駆けてきてくれる。
「ユラはここが好きなのか?」
「……フフッ、そうだよ。……みて?」
柔らかい瞳が水平線を見据えた。
つられるように俺も彼女の視線を追う。
沈んでいく、紅い太陽。
後方から迫り来る、黒。
世界の色が移り変わる瞬間。
「夜が訪れる。この時間が一等好き」
ひたすら夜のはじまりを二人で見守って、気づけば、月明かりが辺りを優しく包みはじめていた。
「……波の音、月と星の光、みんなの、笑い声」
ふわりと、ユラが微笑む。
俺の、俺たちの好きな、ユラの満月みたいな笑顔。
「ここにいると、いつでもみんなの存在を感じることができる……。だから、だいすきよ」
君の愛した世界はいまも変わらないのに。
世界に君が足りない。
――――――――――
バイオレットの過去話。
(12/2/7)
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