Violet Cross



君のいない世界では、俺たちは空を見つめることすら出来ないんだ。








ユラが、砂浜が好きなのは空と海が綺麗に繋がるからだと言っていたことを不意に思い出す。

そんな光景は塵とも見えない北の地で、俺たちは演習を行なっていた。


「……雪、だな」


リュウキュウでは見ることのない白の結晶が、タクトの髪に落ちたことに気づく。


「……寒い」

「あぁ、きっとリュウキュウは暖かいだろうな」

「……」


呟いた声に同意を示せば、無言の答えが返ってきた。



帰りたい、帰りたくない。



もう、彼女はリュウキュウで待ってはいないから。

大好きだった淡い満月みたいな笑顔が、俺たちを迎えることはもうない。


「………ユラ……」


きっと無意識なのだろう。

タクトが小さく彼女の名を呼んだのは。



「……僕は、……彼女の愛した世界を、守る」

「………」



それを、ユラは望むだろうか?



彼女なら、世界よりも、俺たちを愛してくれるんじゃないか?



問いかけに答える声はないと知っているから、俺は静かに空を仰ぐ。



灰色の世界に荒く吐いた息は、一瞬で、儚く消えていった。










――――――――――
SRXの曲を聞きながら一気に書いた代物。ヒロイン既にいないという。
(12/2/6)

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