閉ジ籠メテ、アイ。(side:葵)
「うわ、でた鹿野兄」
「……ユラっ!今日こそは俺様のものにしてやるよ…!」
廊下を歩いてたらユラと遭遇した。
つか速攻Uターン&逃亡っておまえ……!
普段ならそのまま後ろ姿を見送るのだけど、何となく、癪だったから追いかけてやった。
しかしそういう時に限って、ガタのくるこの躯。
不意に息が切れて。
走り続けるのがムリっぽいと顔を上げた瞬間、ユラがいきなり立ち止まるから思わずぶつかりそうになる。
「っのわ!!き、急に立ち止まってんじゃねーよっ!」
「デートする金はないって言ってるし。そろそろ飽きろや」
「……っとに、口、……悪ィなユラは……っ」
「……息切れてんじゃん。バカみたいに走るから」
急に手を引っ張られ、近くのベンチに座らせられた。
とりあえず上がった心拍数を整えるのが先決だ。
不意に頭を過ったのは、兄貴の姿。
もう、あまり時間がないのかもしれない。
「満身創痍ね」
「……はっ?」
俯いていた所に、思わぬ言葉が降ってきて。
俺はユラを見上げた。
彼女は、更に言葉を重ねる。
「……アンタはどうしたいの?私とシたいの?」
「……、っ」
今まで、自分からは一切そのネタを振ってこなかっただけに、その衝撃は中々のものだった。
何にも靡かないユラに、いつから惹かれ始めたのか。
明らかな拒絶を見せていた彼女を、絶対に俺のものにしたくて。
ひたすらに求め続けた。
それが、通じたのだろうか。
自然と、笑みが浮かぶ。
「ユラが、俺様に抱かれたいってのなら、シてやってもいいぜ?」
いつもの癖でいつものように煽る発言をしても、彼女は少し困ったように首を傾げるばかりで。
「……こういうときは『アンタの好きにしていい』って言ったらいいの?」
身体中が痺れるような感覚を味わう。
なげやりな言い方だったけれど、ユラのその口で「好きにして」なんて言われたら。
俺は理性を総動員して、今にも彼女を抱き締めてしまいそうな体を抑え込んだ。
「そんななげやりな言い方されたら、反応するもんもしねぇよ」
「……贅沢な男」
夢でも、見ているのか。
座ったまま見上げていた俺に被さるように、ユラが俺を抱き締めたのだ。
「葵の望むように。アンタが朽ちるまでアンタのものでいてあげる」
その一言で。
俺が、俺の存在が朽果てるまで。
彼女を愛し尽くそうと誓った。
優しく重ねられた唇を、貪るように味わう。
例え彼女が俺を愛していなくとも、構わない。
もう、どちらにせれ。
俺はお前しか愛せないのだから。
――――――――――
利害の一致。それもアイ。
(11/12/09)
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