閉ジ籠メテ、アイ。


(トリップヒロイン設定)







「うわ、でた鹿野兄」

「……ユラっ!今日こそは俺様のものにしてやるよ…!」


廊下を歩いてたら鹿野兄と遭遇したので、とりあえず全力でUターン&走って逃げる。

しかし今日はなんと追って来やがるじゃないですか。

振り返った先の息を切らす彼を見て、胸を貪る罪悪感。


苛立ちから、私は走るのを一瞬で放棄した。


「っのわ!!き、急に立ち止まってんじゃねーよっ!」

「デートする金はないって言ってるし。そろそろ飽きろや」

「……っとに、口、……悪ィなユラは……っ」

「……息切れてんじゃん。バカみたいに走るから」


鹿野兄の手を無理矢理に引いて、近くのベンチに座らせる。

息を整える彼を見下ろして、漠然と思った。



もう、あまり時間がないのだと。


「満身創痍ね」

「……はっ?」



「……アンタはどうしたいの?私とシたいの?」


最期の思い出に?


「……、っ」


綺麗な瞳が驚いたようにこちらを見つめている。

拒否する理由は単に彼の思い通りに扱われるのが嫌だったから。
この世界では私に失うものはないから、徹底的に拒絶できた。

だけど、私は、油断したのだ。

情を、抱いてしまった。


ニヤリ、と口角を上げた彼。


「ユラが、俺様に抱かれたいってのなら、シてやってもいいぜ?」


そのムカつく発言すら、儚さを映し始めたその青白い陶器のような肌を見ていると怒りは自然と霧散する。

だから、顔を合わせたくなかったのに。


「……こういうときは『アンタの好きにしていい』って言ったらいいの?」

「そんななげやりな言い方されたら、反応するもんもしねぇよ」

「……贅沢な男」


ベンチに座り込んだままの彼に覆い被さるように、その細い体を抱きしめる。


「葵の望むように。アンタが朽ちるまでアンタのものでいてあげる」


それは遠くない先の話。



重ねた唇に感じた罪の味。

それは、少し掠めた彼の表情が、喜びに見えたからか。
そんな彼の未来を知っているからか。
それ故の同情から、彼に身を寄せた自分に対してか。



もう、私にはわからない。










――――――――――
葵、どっかのルートで死にそう。
(11/12/09)

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